東京農業大学

メニュー

教員コラム

ビタミンに秘められた可能性

2010年10月18日

応用生物科学部生物応用化学科 教授 田所 忠弘

「今日の食事はビタミンがたりない」「ビタミンをとらなきゃ!」。健康がちょっとしたブームのいま、みなさんもなにげなくビタミンについて話していませんか。誰もが知っているビタミン。現在ではからだの調子を整える役割だけでなく、脳に及ぼす影響についても研究が進められています。

東京農業大学応用生物科学部生物応用化学科の田所忠弘 教授がビタミンの可能性について語ってくれます。

 

サプリメントで手軽にビタミンを補給

テレビや雑誌などでサプリメント(栄養補助食品)の広告を見たことがありますか。最近では手軽さが受けて利用する人が増えているようです。

私たちのからだに必要な栄養素はもともと自然素材からとり入れられていました。しかし素材を加熱するなど加工すると、ビタミンなどの栄養素は破壊されやすくなります。その破壊された分を簡単に補うのにサプリメントの効果は大きいのです。たとえば「だるい、疲れやすい」と感じる時はビタミンB1をはじめとしたビタミンB類が不足ぎみ。積極的に補う必要があります。

「ニンニクを食べるとスタミナがつく」とよく言われますね。これはニンニク中の揮発性成分でもあるアリインがビタミンB1本体と結びつくことで、アリチアミンというビタミンB1の誘導体に変化し、その性質も水溶性からより油に溶けやすい型になるため、からだに畜えることが可能となり体力や持続力がつくというわけです。薬局で見かけるビタミン剤もこのアリチアミンが主成分になっています。

不足しがちなビタミン、とくに水溶性ビタミン(ビタミンB類、ビタミンCなど)をとるためにサプリメントを上手に利用するのも一つの手段。しかしサプリメントの役割は、あくまでも食事の不足分を補うことなのを忘れないように。常用するとからだ本来の働きが鈍くなってしまうこともあるのです。利用には注意も必要です。

一方、脂溶性ビタミン(油に溶けやすい性質がある)はからだに蓄積できるのでとりだめをすることもできます。

しかし蓄積によるとり過ぎの危険があります。とくにビタミンAやビタミンDをビタミン剤でとる場合は、過剰症という頭痛や吐き気などの症状が出る場合もあるので気をつけましょう。

 

脳に働きかける栄養素

いま注目を集めているのがビタミンの機能です。みなさんも知っている脚気を例にとって話しましょう。脚気では足のむくみ、しまいには足が動かなくなってしまうという症状が現れます。これはビタミンB1の不足によって神経の伝達機能に不つごうが生じた結果です。しかしビタミンB1がどのようにして人の神経系統に働きかけているのかはいまだ完全には解明されていません。現在ビタミンB1に限らずB2、B6、B12などのビタミンB類が神経の伝達機能や脳の中枢神経機能にどのような影響を及ぼしているか、大変興味ある研究が進行中です。

 

アルツハイマー病の予防を夢見て

人に対してビタミンを意識的に不足させる実験は難しいため、研究手法の一つとして動物を使った実験が行われています。これはネズミのえさからビタミンB12を取り除き、生まれる子ネズミへと同様な処置をくり返すことで、体内にB12が欠乏しているネズミを人為的に作り出し、正常なネズミと比べて両者の違いを調べる方法です。前者には毛が抜けるなどして明らかな成長過程における障害が現れるので、解剖し顕微鏡で細胞組織等の異常を調べます。最終的にB12が働きかける作用点がどこにあるのか遺伝子レベルまで調べることを目的にしています。

人の脳についてはいまだ解明されていないことがたくさんあります。現代において最も関心を集めているアルツハイマー病についても研究は道半ばです。しかし脳の機能について研究が進むのと相まって、アルツハイマー病の予防を食品から、とくにビタミン栄養の面からアプローチできないかと考えるのは当然です。

実際、アルツハイマー病の発症危険因子にアポリポタンパクEというたんぱく質がからんでいますが、ビタミンB12が働く代謝は、このアポリポタンパクEとも関連してくると考えられます。また、B12の脳内神経関与の面からもつながりがあると思われます。

食事からの栄養素の供給というアプローチから医学と相互にかかわりながら、人のからだの機能を学ぶのも農学のおもしろさです。

ページの先頭へ

受験生の方