東京農業大学

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教員コラム

イモは世界の救世主!

2010年10月18日

国際食料情報学部国際農業開発学科 教授 豊原 秀和

ヤマイモは昔から疲れをとる、精がつく食べ物といわれています。

日本でいうところのナガイモや自然薯(じねんじょ)はヤマノイモ科ヤムイモの和名で、広く世界各地に分布しています。

ヤムイモの生態に詳しい東京農業大学国際食料情報学部国際農業開発学科の豊原秀和教授が、ヤムイモの持つ効用、その無限にひろがる可能性について語ってくれます。

 

ヤムイモって?

ヤマノイモ科のヤムイモは、熱帯から温帯にかけて世界各地で600から700種に近い種が存在しています。

日本で自然薯(じねんじょ)、ナガイモと呼ばれて食用に供されているものも、実はヤムイモの仲間なのです。

そして他の作物のように原産地は一つではなく、東南アジア、南米、アフリカ、日本などいくつかあり、それぞれがその地域の環境にあった特徴を持っているのは興味深いところです。

そもそもイモ類には地下の部分に食用として利用される貯蔵器官があることから、気候の変化に影響されにくいのです。低温やかんばつにも強く昔から「救荒作物」として知られています。

そのなかでもヤムイモは乾燥に強く、また1株で40から50㌔グラムの収穫に達するものもあり、単位面積あたりの収穫量は小麦、稲などの穀類よりも高いといえます。

このことから、地域に住む人々の人口扶養力も高いといえるでしょう。

 

食料危機を救う

現在、世界の全人口の約3/4は熱帯地域に住んでいます。

もともと熱帯地域は食料資源が豊富ではあるものの、発展途上国が多く、人口の増加が著しいため食料問題が深刻になっているのはみなさんも知っての通りです。

ここで、人口と食料という観点から考えると、人ひとりに先進国なみの食料を確保するためには一人あたり0.4㌶(サッカーコート約1個分)の耕地面積が必要であるといわれています。

しかし現状では約60億人といわれている世界の人口分の耕地面積を確保するのは非常にむずかしいでしょう。

地球温暖化やオゾン層の破壊が叫ばれている今、これ以上の森林の伐採、農地の拡大には限界があるからです。

とすると、食料を供給するためには乾燥地帯、湿地帯などの未利用地を活用する、マイナーな作物で食料資源になりうる作物の探索やその栽培技術の確立が重要と考えられます。

ヤムイモは他の作物の栽培が困難な場所での栽培が可能であり、生産性の高い作物という点から、食料危機を救う”21世紀の食料資源"として期待されています。

 

美容に、健康に、一石三鳥

ヤムイモには一部の種をのぞいて青酸化合物などの毒成分があり、それを抽出して加工し経口避妊薬(ピル)の原料として、また美白にも役立つことで化粧品の原料としても利用されてきています。

食用とするには毒ぬきが必要ですが、最近では加工技術が開発されて生食のほかにヤムイモの粉、麺、ジュースなどが作られています。

ここ数年、お隣の台湾ではヤムイモが「機能性食品」としてもてはやされ一大ブームになっています。

中国では昔からヤムイモを「山薬」と称し強壮、健胃などの薬効があるとされてきており、現在ではヤムイモの栽培のしやすさが新たに着目されているのです。

ヤムイモは病害虫がつきにくく、農薬を使わない自然農法、有機農法でも栽培が可能です。 そのうえ生産性も高い点が見直され、農作物の残留農薬が問題視されるなか、現代人の「健康」への要求にマッチしたのでしょう。

しかし、薬用、食用として人に利用されているのは、まだヤムイモの種全体の一部分にすぎません。 700近くある種を考えると、種についての生態の解明は道半ば。ヤムイモにはまだまだ薬用効果、栄養効果はもちろんのこと、さらに人に役立つさまざまな可能性が秘められているといえるでしょう。

環境問題や食料問題を考える上で、利用価値の高い作物、環境をそれほど破壊しないで栽培可能な作物の探求や栽培技術を確立するのも、農学のおもしろさです。

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