東京農業大学

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教員コラム

鳥インフルエンザの正体

2010年10月18日

農学部畜産学科 教授 渡邊 忠男

2004年1月に鳥インフルエンザの発生という耳慣れないニュースを聞いたとき、「鳥も風邪をひくのか」と驚いた人もいるのではないでしょうか。

そこで、東京農業大学農学部畜産学科の渡邊忠男教授が、家畜の病原微生物と人間の健康との関わりについて語ってくれます。

 

鳥インフルエンザの正体

1月に、山口県の養鶏場で発生した鳥インフルエンザは、鳥の大量死を引き起こしました。日本では79年ぶりのことです。ベトナムや韓国、香港で同様の鳥インフルエンザが大規模に流行したときには人に感染した例もあるため、被害の広がりが心配されました。

インフルエンザとは、生きた細胞で増殖するウイルスが原因となる病気のひとつです。インフルエンザウイルスはH(血球凝集)抗原として15種類、N(ノイラミニダーゼ)抗原として9種類あり、両抗原の組合せ(現論上135種)で表現されますが(H5N1型等)、変異することがあるために対策が難しく、一度発生すると爆発的に流行するのが特徴です。

鳥は全ての型のウイルスに感染しますが、人に感染するインフルエンザの型は限られています。人のインフルエンザウイルスのルーツは鳥(特に水鳥)にあると見られています。鳥や豚その他の動物の体内で、動物のウイルスと人のウイルスが同時に感染すると、その体内で両ウイルスの遺伝子交雑が起こって、新型のウイルスが生まれる可能性があるというわけです。ここで鳥や豚などの病気が、人の健康にも関わりがあることがわかります。

 

タマゴの賞味期限

ところで、タマゴの賞味期限は、いつまでかわかりますか?表示されている賞味期限は、冷蔵保存していれば生でも食べられる期限とされています。
なぜなら、食中毒の原因となる病原微生物は冷蔵していれば急速に増殖しません。もし多少存在していても高熱に弱いので、しっかり熱を加えれば問題はないのです。食中毒を怖がるだけでなく、こうした正しい知識を多くの人が持つことが必要といえるでしょう。

 

ワクチンで病原微生物を予防

食中毒の原因となるサルモネラ菌など、家畜がもつ様々なウイルスや細菌、原虫などの「病原微生物」は、直接的に人の健康に問題を引き起こす可能性があります。健康な大人には抵抗力があるため、ほとんどの場合問題になりません。しかし、免疫力が低い子どもやお年寄り、また体調がよくないときには健康を害することもあります。

こうした被害を防ぐため、家畜の飼育は衛生管理が徹底されていますが、自然界に存在する無数の微生物を完全にシャットアウトするのは不可能です。そこで、病原微生物(特にウイルス性疾病)から家畜を守るためにワクチン、いわゆる予防接種をするという方法がとられています。

ワクチンの歴史は古く、1796年にイギリスの医師ジェンナーが、天然痘予防のために種痘を行ったのが始まりです。これは、一度異物が侵入するとそれを排除(もしくは無害化)するように体が反応し、次に同じような異物が来たときにすぐ対応できるよう準備するという、もともと体が持っている仕組みを利用するものです。

薬とは違って副作用が出ないため、家畜の健康、しいてはそれを口にする人の健康にとっても有意義なものです様々な病原微生物に対応するワクチンそのものの開発はもとより、実際に使用するうえでのより効果的な接種方法・量・時期などのワクチン・プログラムについても、日夜研究が進められています。家畜の病気を防ぐだけでなく、その過程が人間の健康に対して悪影響を出さないかについての研究も重要です。

このように、家畜の飼育環境や健康状況を調査・診断し、人間の健康との関わりを研究していくのも農学のおもしろさです。

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