消費期限と賞味期限
2010年10月18日
応用生物科学部栄養科学科 教授 徳江 千代子
食品表示の正しい知識を
近年、加工食品や調理済み食品を利用することが多くなり、生鮮食材を家庭で調理して食べることが少なくなった。日常の食材がどこで、どのようにして生産・加工され、どのような経路で届けられるのか。安全なのかどうか。多くの場合、人間の五感や経験、知識だけでは見分けることは難しい。そこで、頼りになるのが、消費期限、賞味期限などの「食品表示」である。
食品表示は、消費者と生産者を繋ぐ唯一の情報源である。最近、食品の安全性への危惧が強まっている。相次ぐ食品偽装事件はあきれるばかりだが、消費者もまた食品表示に関する正しい知識を持つことが求められる。
食品表示の仕組み
食品表示制度は最近10年間の社会需要の変化に合わせて、表示の対象が拡大され、表示内容が充実して実用的なものへと変わってきた。当初は生産者や事業者を対象とする規格表示であったが、次第に消費者が商品を選択する為の便宜をはかる品質表示に変わり、最近では、生産者と消費者を結ぶ安心、信頼の情報として、また消費者の健康を保護するものへと変化してきた。
生鮮食品では、名称・原産地が表示され、加工食品の包装パッケージには、原産地、原材料、消費期限・賞味期限、食品添加物、遺伝子組み換え等が表示されている。食品表示についての消費者の関心も高まり、著者らのアンケート調査では、食品を購入する際、約95%の人が賞味期限表示などを見ている。
消費期限や賞味期限が表示されるようになったのは、1995年4月からで、それまで食品には「製造年月日表示」が義務づけられていた。今のような期限表示へ切り換わったのは、加工技術の進歩により食品の品質がより長期間保てるようになったこと、また、日本に来るまでに時間がかかる輸入食品は「製造年月日」が古いという理由から、品質上問題が無いのに消費者に敬遠されがちであった等、国際規格との調和が必要という理由から製造年月日よりも期限情報が求められるようになった。
2種類の期限表示
消費者が食品を買う時一番気にするのは、いつまでなら食べられるかということである。簡単にいうと、消費期限は「いたみやすい食品」、賞味期限は比較的「いたみにくい食品」が対象である。
消費期限は弁当や惣菜、調理パン等に表示され、製造日より5日以内に悪くなるようなものが対象で、期限をすぎたら「安全ではない」ことを示している(年月日表示)。もし食べてしまって何か問題が起きても自己責任ということになる。
一方、賞味期限は、その日付までならメーカーが品質を保証し、美味しく食べられることを意味する(年月日表示)。だから、期限をすぎたからもう絶対に食べられないというわけではない。製造日から3カ月を超す場合「年月」でよい。
開封前の状態が前提
「開封したらお早めに」とある場合、この「お早めに」とは、1日しか持たないのか、1週間大丈夫なのか出来れば具体的な日数を書いてほしいところであるが、開封後の環境はメーカーに予想が出来ない。いつまでなら大丈夫という保証が出来ないので、消費者の自己判断に任せられている。
賞味期限は「開封前の状態」が前提である。賞味期限が1年先のレトルトカレーでも、開封したら普通の料理と同じこと。牛乳などで、「要冷蔵」と書いてあるものは「保存方法を守る」ことが消費期限・賞味期限の前提である。ただし、常温保存できる食品のほとんどは保存方法の記載義務はない。
表示義務のない食品も
表示をしなくても良い食品もある。それは、以下の3種類である。
①野菜、肉、魚等の生鮮食品:これらはすぐに悪くなるのでなるべく早く食べてしまうのが常識。
②アイスクリーム類:冷凍保存され、溶けなければほとんど品質が劣化しない。
③ガム、砂糖、食塩、旨味調味料、飲料水、氷等。
期限を決めるのは業者
期限は、公の専門機関が決めていると思いがちであるが、実は食品を加工したメーカー(または販売業者)、輸入食品は輸入業者が決めている。これは、その食品について良く知っているのは作った人か輸入をした人で、その人が責任を持って設定するという理由である。食品表示には期限だけでなく「製造者」ないし「加工者」「販売者」「輸入者」などが併記されていて、この人たちには、正しい期限を表示する責任がある。
検査の方法
期限を決めるにあたっては、いろいろな検査が必要である。その方法や内容は食品ごとにまちまちなので、業界団体がガイドラインを決めている。実際には専門検査機関が、メーカーなどから委託されて微生物などについて検査するケースが多くなっている。主な検査内容は次のようなものである。
①微生物試験:大腸菌などの細菌数を調べる
②理化学試験:粘りや濁り、比重、pHなどを測定
③官能試験:目で視て、匂いをかいで、食べてみてどんな状態であるか調べる。
これらの結果をもとに、ゆとりをみて実際の3分の2程度の短かい期限を設定する。
期限表示を変えるケース
期限表示を張り替える? そんなことは許されないと思うだろうが、認められるケースもある。例えば店頭の「トンカツ用のロース肉」が消費期限ギリギリ。しかし、それに衣を付けて揚げると、その日が加工日となり、「トンカツ」として消費期限を再設定してから再び販売することができる。さらにトンカツの消費期限になったら、今度は「カツ丼」にする。これは「加工した時点」で消費期限・賞味期限を再設定できる。加工すれば別の食品であり、再加熱することで衛生上や品質上も問題がないと考えられるからである。再設定が科学的、合理的な根拠を持って行われた場合には、ラベルを張り替える行為が違法になることはない。
五感の判断も大切に
食糧自給率が40%程度の日本では、全体の半分以上の食材を輸入に頼っている。しかし、一方では、食べ残しなどによって廃棄される食材も膨大な量にのぼっており、供給される食品の約30%が廃棄されている。賞味期限を過ぎたからといって、すぐに捨ててしまうのは資源の浪費につながる。そこで、普段から食品を目で視て、匂いをかいで、味見をし、五感を使って判断をすることに慣れておくことが大切である。それには食品の本物の味を知っておくことがより重要なことだと思われる。
(本誌<ほん>欄に、徳江氏監修『賞味期限がわかる本』を紹介している)