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ニュースリリース

研究成果(共同)「遺伝子組換えを使わず、鉄を多く含むコメの開発に成功」 | 農芸化学科 齋藤 彰宏 助教ら

2026年3月25日

教育・学術

遺伝子組換えを使わず、鉄を多く含むコメの開発に成功
~鉄欠乏性貧血対策につながる新しい育種技術~

研究のポイント

  • 遺伝子組換えを使わず、鉄含量を大幅に高めたイネ系統の開発に成功
  • 白米と玄米のどちらでも、鉄が増加することを確認
  • 亜鉛や銅も同時に増加しつつも、カドミウムなどの有害な重金属は増加せず
  • アルカリ土壌など鉄欠乏環境でも生育・収量が維持

概要

東京農業大学 応用生物科学部の齋藤 彰宏 助教らの研究グループは、九州大学(熊丸 敏博 特任教授)、千葉大学(浦口 晋平 准教授)、東京大学(藤原 徹 教授)との共同研究により、遺伝子組換えを用いずに鉄含量を高めたイネ系統の開発に成功しました。本研究では、鉄欠乏応答を制御するHRZ1遺伝子1)に新規変異をもつイネ変異体を発見し、その変異を利用して鉄を多く含む実用的な育種系統を確立しました。

開発したイネでは、葉および玄米中の鉄含量が従来品種の約2~3倍に増加し、通常私たちが食べる白米(胚乳)部分にも鉄が多く蓄積することが確認されました。また、鉄が不足しやすいアルカリ土壌条件でも生育が維持されることが示されました。さらに、必須元素である亜鉛や銅も同時に増加しつつも、有害重金属(カドミウムなど)の吸収増加は認められませんでした。

本研究成果は、世界で約20億人が影響を受ける鉄欠乏性貧血の改善に向けた非遺伝子組換え型2)の新しい鉄栄養強化(バイオフォーティフィケーション)3)技術として期待されます。本研究成果は国際学術誌 Rice に掲載されました。

1. 背景

鉄は生命活動に不可欠な元素ですが、世界では約20億人が鉄欠乏に苦しんでいます。特に主食作物からの鉄摂取量の不足は鉄欠乏性貧血の主要因とされています。

イネは世界人口の半数以上の主食であるため、コメの鉄含量を高める「栄養強化育種(バイオフォーティフィケーション)」は重要な課題です。しかし従来の遺伝子組換え技術による品種は社会受容性や制度面の課題があり、実用化が限定されていました。そこで本研究では、遺伝子組換えを用いない方法による鉄強化イネの開発を目指しました。

2. 研究手法や研究成果

研究グループは、突然変異誘発処理を施したイネ集団から鉄を大量に蓄積するtetsu変異体を発見しました。この変異体では、鉄欠乏応答を負に制御するHRZ1遺伝子1)に新しい機能変化をもたらす変異が生じていることを明らかにしました。この変異により鉄吸収関連遺伝子の発現が強く誘導され、葉および籾での鉄蓄積量が大幅に増加しました。さらに鉄の蓄積は外層だけでなく白米部分にも及ぶことが確認されました。

また本変異体は有害重金属(カドミウムなど)の過剰蓄積は見られない上に、鉄の取り込みが強化されているために鉄欠乏が生じやすいアルカリ土壌条件でも生育が維持されることを明らかにしました。このtetsu変異体は育種利用も可能で、本研究内では黒米品種との交配により、鉄含量の増加のみならず、高い抗酸化効果が報告されている複数のポリフェノール類を玄米中で同時に増加することに成功しました。

3. 期待される効果、今後の予定

本研究は

  • ・非遺伝子組換えによる主食作物の栄養改善
  • ・食品としての利用可能な実用品種の開発
  • ・栄養改善と農業生産性の両立


という点で重要な成果です。特に主食作物の栄養改善は、医療やサプリメントに依存しない持続的な健康改善手法として世界的に注目されています。

現在、動物試験による有効性の検証を進めています。今後は多様な品種への導入や品種改良を進め、実用的な鉄強化イネの普及を目指します。

4. 研究プロジェクトについて

本研究は、東京農業大学総合研究所コメプロジェクト研究、同学部長主導型研究プロジェクト、同戦略研究プロジェクト、および日本学術振興会科学研究費助成事業(科研費)基盤研究(B)(課題番号:24K01656)の支援を受けて実施されました。

5. 論文情報

論文名 Establishment of a non-transgenic iron-biofortified rice line using a novel HRZ1 mutation

著者名 Akihiro Saito ほか

雑誌名 Rice

DOI 10.1186/s12284-026-00897-6
   https://link.springer.com/article/10.1186/s12284-026-00897-6

公表日 3月13日公開済 (Rice誌オンライン掲載)

6. 用語解説

1)   HRZ1(Iron sensing ubiquitin ligase)
  植物が鉄欠乏状態を感知し、鉄吸収関連遺伝子の働きを負に調節するタンパク質。本研究ではHRZ1遺伝子の変異により鉄吸収が強化され、イネ体内への鉄蓄積が増加した。

2)   非遺伝子組換え(non-transgenic)
  外来遺伝子を導入する遺伝子組換え技術を用いない方法。本研究では突然変異育種と交配により鉄含量を高めた。

3)   鉄栄養強化(鉄バイオフォーティフィケーション)
  サプリメントや食品添加ではなく、作物自体の栄養成分を高めて不足する栄養素を補うことを可能とする技術。

  • 図1 鉄を多く含む新規イネ系統の作出
    遺伝子変異により、玄米中の鉄が増加することを確認した。
    左:鉄染色による玄米断面(青色が鉄)。
    右:玄米中の鉄・亜鉛・銅含量の比較。
    遺伝子組換えを用いない栄養強化作物の開発につながる成果。

  • 図2 開発した鉄強化イネ系統の外観
    上段:ポット栽培した各イネ系統の草姿。
    下段:各系統の玄米の外観。
    HRZ1変異を導入した改良系統は、通常の栽培条件下において大きな生育障害を示さず、実用的な栽培が可能であることが確認された。また、玄米の外観形質も比較し、品種背景による違いが観察された。本研究で開発した系統は、栄養価向上と栽培特性の両立が期待される。

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