東京農業大学

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教員コラム

「農から考える食の安全」を討論

2012年1月23日

応用生物科学部生物応用化学科 教授 岡田 早苗

東京農業大学シンポジウム
「食農総合安全センター」設置構想も

東京農業大学シンポジウム「農から考える食の安全」が6月10日、東京・丸ビルホールで開催された。東日本大震災に対応して、本学で始動している東日本支援プロジェクトの一環でもある。農業や食料、環境問題の専門家らによるパネルディスカッションに、300人余の参加者が熱心に聞き入り、この問題に対する関心の高さを示した。また、本学からは「食農総合安全センター」(仮称)の設置構想も明らかにされた。

 

学長挨拶「オール農大で取り組む」

シンポジウムは、実行委員長岡田早苗教授の総合司会で進行した。はじめに主催者代表として、大澤貫寿学長による開会の挨拶があった。  学長は、福島県との連携で進めている東日本支援プロジェクトの活動について紹介、「農から考える食の安全」は、オール農大として取り組むべき課題の一つであると述べた。次いで、高野克己副学長がシンポジウム企画の経緯、趣旨を説明した。  東京農大の「食農総合安全センター」は、食の安全確保のために、その生産・加工・流通・消費について評価、分析するのが狙い。まだ構想の段階だが、全学あげての研究、教育の場として取り組むべく、学内で検討している。

 

第一部 講演

嘉田氏「食農安全教育の役割」

続いて、「食の安全」の基本的捉え方と東京農業大学が果たすべき役割などについて、総合地球環境学研究所教授の嘉田良平、東京農業大学客員教授の荒井綜一両氏が講演した。
嘉田氏は、「食の安全・安心と食農安全教育の役割」をテーマに、揺らぐ食と農の安全、とくにアジアの食リスクがグローバル化している現状を説明、国際的視野のもと安全リスク管理の必要性を説いた。さらに食と農をつなぐ一連の食農総合安全を捉えることができる教育体制の重要性を強調した。農業界と食品産業界の連携をより緊密化し、消費者の理解と協力のもと川下ニーズ対応を情報伝達と開示の重要性を踏まえて食の生産環境を守りながら行うなど具体的に提案した。そしてこれらを積極的に担うべき東京農業大学の役割は大きく、今こそ一丸となって大学が動くべき時期であると精力的な講演を行なった。

 

荒井氏「食品の安全摂取基準の予測」

荒井氏の講演のテーマは、「食品の安全摂取基準を予測するニュートリゲノミクス」だった。食べる安全第一優先の食品のあり方や健康に対する食品中のリスク因子の理解に始まり、医薬と食品の差異、特定保健用食品の開発と研究の現状へと話を展開した。食の安全を考える大切なポイントとして人の感性部分、栄養代謝部分そして生体調節部分をトータルとしてとらえる新たなフードホールサムネスの考え方を提唱した。最終的に個人の食の安全確保にとって欠くことの出来ない技術研究と実用性を持ち合わせたニュートリゲノミクスから捉えて行く方法とともに教育の上で総合食品機能学の必要性を訴えつつ、さらに「農学をベースとした実学の途」を説き、東京農業大学の食農総合安全センター設置構想に支援とエールを送った。

 

第二部 パネルディスカッション

各界の5氏が発表・討論

第二部のパネルディスカッションは、パネリストとして嘉田氏のほか各界の4氏を迎え、北村行孝・東京農大教授(元読売新聞科学部長)の司会で行われた。
食品の安全性を分析の立場から評価、表示の役割を担っている農林水産消費安全技術センター(通称FAMIC)理事長、元東京農業大学教授吉羽雅昭氏は、肥料、農薬、飼料から食品表示まで、様々な局面におけるFAMICの検査・分析システムを紹介した。
丸の内で環境を踏まえた「都市の食」の在り方と真剣に向き合って実践推進している三菱地所都市計画業環境ユニットマネージャーエコッツェリア協会事務局長の平本真樹氏は、"大丸有"(大手町、丸の内、有楽町)という日本を代表するビジネス街で、食や環境の問題にいかに取り組んでいるかを語るとともに、山梨県の耕作放棄地に都会生活者を動員して、イネなどの農産物を栽培する「空と土プロジェクト」などを紹介した。生産と消費の現場をつなぐこの試みの話には、食の安全に期待されていることであり会場から共感が寄せられた。
福島第一原子力発電所の事故を契機に放射能と食の安全に関心が高まっていることにも当然話題はおよんだ。消費者と食品産業界、行政とのパイプ役として活躍中の日本消費生活アドバイザー・コンサルタント協会食生活特別委員会副委員長の蒲生恵美氏は、リスクコミュニケーションの観点から「安全」と「安心」は別に扱う必要があることを強調し、科学的に見た「安全」を語るだけでは足りず、情報発信者の信頼などの心理的な要因が「安心」に繋がると語った。
茨城県で先進的な米作に取り組んでいる有限会社アグリ山崎を代表する山﨑美穂氏は、消費者の安全指向の高まりのなか、輸出できるような農業を目指したいとその夢を語るとともに、小学校への出前授業などの経験をもとに、農村地域でも食文化が衰えつつある現状を披露し、食育の必要性を訴えた。
最後に嘉田氏は、食の安全分野における東京農業大学の役割について、深い専門性に加えて視野の広い人材を育てる必要性を語り、東京農業大学が「農と食の安全センター」のような仕組みをぜひ創って社会に大いに貢献して欲しいとその期待を述べた。

 

クロージングリマークス

本シンポジウムを閉じるにあたり、田所忠弘・東京農大教授が以下のように総括した。
「農から考える食の安全」のテーマは、討論すればするほどその安全の考え方の幅広さには驚かされると同時に、環境を踏まえた生産から消費に至るまで一貫した食の安全を考える専門家育成の必要性が浮き彫りにされた。東日本大震災に伴う農作物の放射能汚染の捉え方についても、その科学的根拠から消費者心理を弁えた情報の発信の仕方や風評被害を踏まえた情報の在り方や伝え方、情報の受け取る側の心理的側面まで理解した上で、食の安全の考え方についてより深く知識が拡がったと思う。農を踏まえた食の安全について、私たちが考えるべき基本から実学的行動まで食農の一貫した安全確保を実現することが、人により多くの安心を与えるための道筋であることが示めされた大変に充実した意義深いシンポジウムとなった。

本シンポジウムは、農林水産消費安全技術センター、日本食糧新聞社、エコッツェリア協会ならびに実践総合農学会、東京農業大学総合研究所研究会、東京農業大学教育後援会の後援をいただいきました。主催者として心から御礼申し上げます。

 

 

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