「網走ビール株式会社」設立
2012年1月20日
生物産業学部食品香粧学科 教授 永島 俊夫
オホーツク新食品誕生記(4)
ビール・発泡酒の開発(3) 工場長に卒業生を採用
東京農大オホーツクキャンパスにビールの試験醸造装置が設置され、種々の試験醸造を行っていましたが、このような装置を設置してビールの醸造研究を行っている大学は日本で他に例がないため、新聞社やテレビ局などの取材も多く、地域でもよく周知されるようになりました。当時は地ビール会社の設立が相次ぎ、どちらかというと乱立状態となってきた時期でしたが、網走市民からは「農大が地元でビールの研究をしているのだから、その技術を生かして地ビール会社を作りたい」という機運が高まってきました。
そこで平成8年12月、網走市民有志による「網走地ビール研究会」が発足しました。地域の原料を用いて醸造研究を進めている農大の試験醸造による製品の品質調査をはじめ、建設場所の検討や実際に地ビール会社を設立した場合の事業計画などの議論を重ねてきました。研究会は毎月開催され、1年半ほどかけていよいよ網走にも地ビール会社が設立されることになりました。種々準備をしている中で醸造担当者を探していたところ、私の研究室で網走に地ビール会社ができるならば、ぜひそこで働いてみたいという強い意志をもった学生がおり、採用していただきました。現在も工場長として頑張ってくれている食品科学科卒業の條将之君です。そして平成10年9月に網走ビール株式会社が設立、製造内免許を取得して準備を進め平成11年10月網走ビール館がオープンしました。
会社のキャッチフレーズは「地元の原料、地元の技術、地元の資本」でした。地ビール会社の技術的支援を行う大学は他にはないため、大きな特徴になりました。また、地元の原料ということについては、主原料である大麦麦芽は多くの地ビール会社では輸入品が多く、地域の原料を使うことはほとんどありません。オホーツク地域で栽培されているビール用大麦はすべてサッポロビールの契約栽培であることから、網走ビールでは地元の大麦を使えるようにするため、サッポロビールの技術支援も受けることになり、エール、ヴァイツェン、ピルスナーの3種類のビールを中心に製造販売しました。特にヴァイツェンは前述したように、これまで農大が種々の研究を重ねてきた成果を製品に生かしたもので、評判も上々でした。
しかし、ビールは酒税が高く、しかも地ビール会社の製造規模では製造コストも割高になり、大手ビール会社との勝負は大変厳しいものでした。そこで地ビール会社ではビールよりも麦芽使用量が少なく、酒税が安い発泡酒の製造に力を入れるようになりました。当然ながら大手メーカーもその開発が行われ、多くの発泡酒が誕生しました。網走ビールでも、これまでのビールのほかに発泡酒の醸造免許を取得し、新製品開発の準備を進めていたところ、次回に紹介する「ナガイモ発泡酒」の製造を行うことになりました。