東京農業大学

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教員コラム

東日本支援プロジェクト水田にがれき、ヘドロが堆積

2011年6月9日

東日本支援プロジェクト 名誉教授 門間 敏幸

相馬市で調査、復旧に協力へ

東京農業大学が全学をあげて取り組む「東日本支援プロジェクト」の実施対象地として選択した福島県相馬市において、5月1日から4日にかけて今後のプロジェクトの推進について、福島県農業総合センター、相馬市と打合せを行うとともに、第1回現地調査を行った。参加メンバーは、東京農業大学から大澤学長、門間教授(プロジェクトリーダー、被害調査・農業経営復興計画)、渋谷准教授・バットデルゲル助手(被害調査・農業経営復興計画)、駒村教授(農地基盤復興)、後藤教授(塩害土壌の改良)、市村教授(園芸生産の復興)、麻生教授・下嶋助教(集落再編計画、GIS)、川野教授・日田講師(栄養改善計画)、川嶋講師(野馬追馬の保全、学生ボランティア活動組織化)等である。

 

福島県との研究協力を確認

相馬市にある福島県農業総合センター浜地域研究所(宗村洋一所長)において福島県と研究連携のための打合せ会議を行った。会議では福島県農業総合センターの目黒企画経営部長の司会のもと、福島県が今後実施を予定している大震災および放射性物質による農業被害軽減のための体系的な研究内容を紹介するとともに、東京農業大学が相馬市で実施を予定している東日本支援プロジェクトの趣旨と取組概要を説明し、相互に意見交換を行った。その結果、浜地域研究所とは水田、園芸施設への海水、土砂流入被害軽減技術の開発面で、また農業総合センター本場とは、農業経営や生産組織等における被害実態の把握と支援策の検討という研究課題で協力連携するとともに、農産物の風評被害に関わる研究課題に関しても、相互に情報交換して研究推進に役立てることが確認された。

 

相馬市の復興課題は何か

また、復興支援プロジェクトに対する相馬市との打合せでは、立谷相馬市長から東京農業大学への要望を聞き、そうした要望に応える形で相馬市の協力を得ながらプロジェクトを推進して行くことが確認された。立谷相馬市長が訴えた現在の相馬市の深刻な悩みは、次の通りである。

(1)津波で200万トンのヘドロをかぶるとともに、2万トンのがれきで覆われた約1,100haの水田の復元をどうするか(相馬市の水田は約2,700ha)。また、39cmも地盤が下がってしまった干拓地の水田をどのように復元するか。復旧して利用可能になる水田と利用不可能な水田を識別する必要がある。さらには、水田に堆積したヘドロやがれきを産業廃棄物として処理しなければならない費用、場所の確保をどうするか。
(2)これまで相馬市が実施してきた土地改良の償還金をどのように返済していけばいいのか。農業生産の再編のめどが立たない現在、新たな借金をして農業復興のための水利施設の復旧、基盤整備、圃場のがれき・ヘドロの撤去と除塩をすべきか否か。こうした新たな借金を市や農家は以前の借金に加えて返還することが出来るのか。今後、どのくらいの農業収入が確保できるのか、費用便益分析を行って明らかにして欲しい。
(3)相馬で生産された農産物が今後とも売れるのか。売れたとしても価格面での不利をこうむらないのか。福島第1原子力発電所の放射性物質被害はいつになれば収束するのか。収束したとしても放射性物質の影響はいつまで続くのか。
(4)地震、津波、放射線被害という3重のダメージを受けた農民は、果たして農業を再開してくれるのかどうか。現在、TPPの論議が行われているが、TPP問題に決着がつかないと、今後の農業復興の戦略を考える事が出来ない。
(5)農業基盤の復興に関して受益者である農家の負担意識、農業再開意識を把握することが、相馬市の今後の農政展開にあたって極めて重要である。

以上のような問題への対応は、決して相馬市だけの問題ではなく、被災地域共通の課題である。相馬市からこうした問題への解決方法を発信することは、きわめて意義があることを参加者一同確認するとともに、復興とは決して前の状態に戻すことでなく、地域住民が希望をもって活動できる新たな基盤を創造することであることを痛感した。

 

被災農家が置かれた現状

相馬市南部の磯部地区の立切集落の10名の農家の方々と、被害の状況、今後の農業復興に関して聞き取り調査を実施した。その結果、次のような被害の実態が浮かび上がった。

(1)立切集落の全ての水田は津波の被害を受け、ヘドロとがれきが堆積した。水利施設は全て破壊され、海水の排出が不可能になっている。集落の農家15戸のうち、家が全壊したのは6戸、半壊が7戸で2名が死亡している。当該地区は干拓地であり、多くの農家が全ての農業機械を個人で保有し、兼業収入の多くを農業機械購入にあてていた。その総額は農家によって若干異なるが2,000〜3,000万円である。これらの農業機械は津波でほとんどが失われるか、利用不可能になっている。
(2)現状の被害に関しては、個人では全く対応することが出来ない。国や県の方針を早急に示して欲しいという要望が強い。現在は、毎日の生活をどうするかを考えるだけで頭がいっぱいである。個人で家を建て替え、農機具を購入し、さらには農地を再整備して農業を再開するような資金確保は困難である。
(3)将来的には大区画圃場にして特定の担い手に耕作してもらうという方法も考えていかなければならない。その場合、水稲だけでなく、より集約的な作物の導入を行い地域の農民を雇用できるような農業をつくることが望ましい。また、自宅の再建に関して同じ場所に家を建て替えることは危険であり、高台に移住したいという意見も出された。

さらに、和田地区の観光いちご園の後継者の話しでは、現在の観光いちご園の経営者の多くは65歳以上と高齢化するとともに、後継者の多くは安定した勤務に従事しており、いちご園を後継する者はほとんどいない。そのため、今回の津波被害を受けたいちご農家の多くは、生産を再開しない可能性が高いということを話してくれた。

 

今後の支援プロジェクトの推進計画

現在、今回の調査に参加したメンバーを中心に、相馬市での今後の復興支援プロジェクトの推進計画を策定中である。具体的には、門間教授を中心としたグループによる農業経営被害の分析と今後の農業復興計画の策定、後藤教授を中心としたグループによる塩害土壌の分析と回復方法、駒村教授を中心としたグループによる農地や水利施設の復旧方法、市村教授を中心としたグループによる園芸など地域農業の多角化、麻生教授を中心としたグループによる集落移転と新たな集落づくり、川野教授を中心としたグループによる栄養改善の方法についての検討等を進めている。


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