東京農業大学

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教員コラム

栄養バランスで皮膚の健康を

2008年4月1日

応用生物科学部食品安全健康学科 教授 大石 祐一

老化を防ぎ、若さを保つ仕組み

皮膚の老化を防ぎ、若さを保つ物質として、コラーゲンやヒアルロン酸がよく話題になる。その効用を考えることから、私の研究テーマの一つ、「何を食べれば、皮膚にいいのか」について述べたい。

 

皮膚の役割

皮膚は、体の一番外にあり、体内の水分の蒸散を防ぎ、また体外からの細菌等を防ぐ重要な役割を果たしている。この役割をわかる良い例として火傷がある。医者は、火傷をした箇所に抗生物質を多量に塗布するとともに、患者に水分をよく摂るように指導する。これら役割のために、皮膚には、線維芽細胞、表皮細胞、色素細胞、ランゲルハンス細胞などの細胞が存在し、また、様々な分子がこれら細胞によって合成され細胞外マトリックスなどとして存在する。

皮膚の細胞外マトリックスには、コラーゲン、ヒアルロン酸という、メディアなどでよく取り上げられる分子が存在する。これらの分子は、食べると肌に良いなどといわれている。しかし、多くの研究者が多くの時間を費やして研究してきたが、それらの明確なメカニズムは未だに明らかにされていない。

皮膚は表皮と真皮の2層からなり、真皮には、コラーゲン、ヒアルロン酸、エラスチンなどがあり、また血管も存在する。真皮に存在する線維芽細胞は、この血管を流れてきた栄養分を吸収し、またホルモンなどから刺激を受け、細胞外マトリックスを合成している。一方、表皮には、ヒアルロン酸、セラミド、アミノ酸などが存在する。

 

コラーゲンとヒアルロン酸

コラーゲンは、体内に存在する最も多いタンパク質であり、骨、皮膚、血管に多い分子である。皮膚においては、皮膚の形を維持する役割を有している分子である。その代謝は複雑で、様々な分子が関わっている。コラーゲンは血管にも存在し、その分解酵素がガン転移に関わっていることからも注目されている。また、老化とともに、・型コラーゲンの減少が報告され、化粧品関連会社においても注目される分子である。存在比がI型コラーゲンよりも少ない・型コラーゲンも光加齢によって減少するといわれている。  一方、ヒアルロン酸は、表皮、真皮双方に存在し、1gで6・もの水分を保持できるという高い水分保持能を有することから、皮膚に間隙をつくり、栄養分や免疫細胞等を移動させる役割をもつ。「美」に関しては、瑞々しさに関わる。ヒアルロン酸も、コラーゲンと同様、加齢とともに減少する分子であり、40代で乳児の約半分にまで減少する。

これら分子は化粧品に配合されているが、分子量が非常に大きいため皮膚から浸潤することはなく、肌の表面に存在し続け保湿効果を示す。よって、皮膚中のコラーゲン、ヒアルロン酸量の減少を抑制するためには、皮膚を通過できる、効果のある低分子物質を塗布するか、食べて消化管、血管を通して、有効成分を皮膚内に送り、細胞に働きかけ、それぞれの分子の合成を促進させることが必要である。最近の化粧品には、コラーゲン代謝やヒアルロン酸代謝に刺激を与える低分子物質を配合し、肌から皮膚へ働きかけることをコンセプトとしたものも販売されている。  もう一方の食べることによる皮膚内分子の制御を目的とした商品の数も年々増している。私の研究テーマの1つは、この「食べて、皮膚がどうなるか」なのである。

 

ダイエットできれいになる?

私が行ってきた研究の1つは、タンパク質摂食が皮膚にどのような影響を与えるかである。カゼインというアミノ酸バランスの良い食事に比して、グルテンというアミノ酸バランスが悪い食事、全くタンパク質を含まない食事を1週間ラットに与えた時、皮膚のコラーゲンやヒアルロン酸は、その合成が極端に悪くなった。コラーゲンでは、合成直後と考えられる、あまり架橋のかかっていない・型および・型コラーゲンがともに減少していた。また、合成から時間のたった、架橋のかかった、いわゆる「硬いコラーゲン」の減少はあまり認められなかった。これは、皮膚の老化と同様の結果を示していた。  ヒアルロン酸は、アミノ酸バランスの悪い食事摂食によって、全くタンパク質を含まない食事と同等にまで減少した。さらに、この現象は1週間というものではなく、1、2日という非常に短い期間で起きていた。

以上のことからわかるように、若い女性がダイエットする話はよく聞くが、単に食事制限するだけでは、皮膚に大きなダメージを与え、きれいになるどころか老化肌になってしまう可能性が大きくなるのである。また、一品だけを食べるのではなく、様々な食事を取ることにより、1回の食事においてアミノ酸バランスを良くすることが皮膚の健康にも重要であると考えられる。

 さらに、アミノ酸からなるタンパク質は、消化管でペプチドになり、それらが何らかの作用により、皮膚の細胞や様々な分子の代謝制御に関わる可能性も充分に考えられ、今後の研究が待たれる。

 

皮膚に良い食品素材の開発を

高齢社会となった日本において、問題となっているのは、何らかの疾患に罹患している高齢者である。この人口は益々増加するであろう。罹患者の中には充分な食事を摂ることが非常に難しい人もおり、その食事は流動食、最悪の場合は点滴による栄養補充になってしまう。

このような患者は栄養状態を改善しようにもなかなかできない。そのような状況において問題となる1つが、皮膚の健康状態である。一旦、皮膚潰瘍になると、栄養状態が悪いので、治癒しにくい。その理由の1つとして、治癒において重要と考えられている・型コラーゲンの合成減少がある。治癒過程では、まず・型コラーゲンの合成が始まり、その後・型コラーゲンの合成が促進される。よって、創傷治癒においては・型コラーゲンの合成促進が重要と考えられている。栄養状態が悪ければ、型コラーゲンの合成は減少し、治癒しにくいことが考えられる。このような状態でも治癒改善効果のある食事、さらには、皮膚にとって良い食品素材が開発されれば、入院中でのQOLも改善すると期待できる。

 

重金属が皮膚に与える影響

近年、食品中の農薬混入、あるいは重金属含有量など、食品の安全性が問題になっている。特に日本では、土壌中にカドミウムが多いことから、カドミウムの人体に与える影響について長年にわたって研究されている。我々は皮膚に与える影響について検討し、カドミウムの長期摂食がコラーゲン合成抑制作用を起こすことを見出している。カドミウムだけでなく、他の重金属、様々な薬剤に対する皮膚への影響について検討し、食の安全性にさらに貢献していきたいと考えている。

 

食品メーカーと連携研究も

我々は、これらの研究を行う上で、コラーゲン定量、ヒアルロン酸定量、セラミド定量などの方法を確立し、またこれら分子に関わるタンパク質の遺伝子レベル(mRNAレベル)量を測定してきた。今後、これら測定系をさらに充実させ、「何を食べたら、皮膚がどうなるのか」「何を食べたら、皮膚機能が維持さらには改善できるのか」について、さらに追求していきたいと考えている。そのためには、食品メーカーと大学との連携された研究が益々重要になってくると考えている。

 

 

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