東京農業大学

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教員コラム

「旬」を安全に保持する方法を探る

2010年10月15日

農学部農学科 教授 馬場 正

収穫したての作物を「おいしい」状態で消費者のもとに届けるために、どのような工夫がされているのでしょうか。

そこで、東京農業大学農学部農学科の馬場正講師が、「ポストハーベスト」と「農薬を使わないりんごの鮮度保持」について語ってくれました。

 

「ポストハーベスト」って何?

中国から輸入された冷凍ほうれん草の残留農薬問題がマスコミをにぎわせたのは、記憶に新しいですね。以前から、輸入作物における残留農薬の問題を語るときに「ポストハーベスト」という言葉が使われたため、「ポストハーベスト」と聞くと農薬のことと、考えていませんか。

しかし、本来「ポストハーベスト」というのは、「ポスト=(〜の後)・ハーベスト(収穫)」という言葉の意味どおりに、広く農作物の収穫後の貯蔵方法や輸送方法などの品質管理全般を指します。収穫された農作物が消費者のもとに届けられ、その口にはいるまでの過程で起こる問題にどのように対処するかということなのです。

収穫された作物はそのすべてが消費されるわけではありません。貯蔵や輸送時に鮮度がおちていたんだりして、作物により多少違いはありますが、およそ収穫高の25㌫が損失しているというデータもあります。この損失をどうやって少なくするか、作物を「おいしい」状態で消費者のもとに届けるかというのが、「ポストハーベスト」の重要な役割です。

 

くだものが熟すのは?

ここでは、りんごを例にとって話しましょう。りんごは、木になっている時青くて未熟な状態から色づいて熟してきます。そして「食べ頃」をむかえます。このように、果実を成熟させるのは、りんごから「エチレン」という植物ホルモン(植物の中で生産され、生長に影響を及ぼすもの)が出ているからです。果物にはりんごや、バナナのように体内で「エチレン」が作られるもの、みかんやぶどうのように「エチレン」とは関係なく熟すものがあります。

しかし「エチレン」による成熟がさらに進むと、いわゆる過熟の状態となります。これはりんごにとっては自然の摂理ですが、りんごを食べる人にとっては困った状態ですね。

そこで、消費者の口に入るまで鮮度を保つため、収穫後の「エチレン」の生成をコントロールしようとする研究が進められています。

 

一年中りんごが食べられる理由

なかでも有効性が認められているのは、りんごを貯蔵するにあたり貯蔵庫を低温にし、かつ庫内の空気の組成をコントロールする「CA貯蔵」という方法です。庫内の酸素濃度を下げ、反対に二酸化炭素の濃度を上げることでりんごの呼吸活動を抑え、人工的にいわば「冬眠」に近い状態を作るわけです。

こうすると、「エチレン」の生成も抑えられ、りんごの鮮度が保たれます。今日、私たちがりんごを一年中食べられるのはこの貯蔵方法が開発されたおかげです。

このほか気圧の高い環境では「エチレン」の生成に働きかける酵素の活性が失われるということが判明し、貯蔵または輸送のさいに加圧処理を施すという研究も進められています。

「エチレン」をコントロールするために薬を使うのは簡単です。花卉の仲間にはりんごと同様、自ら「エチレン」を作る品種があり、薬でその作用を抑えて切り花として長持ちさせています。りんごにも薬を使うという方法もあるでしょう。

しかしりんごは、花とは違い人体に入るため、できるだけ農薬を使わない方法で対処できるようにし、消費者の選択の幅を広げる努力がなされているのです。

収穫された作物が、おいしく食べられる様に追求し、研究していくのも農学のおもしろさです。

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