東京農業大学

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教員コラム

微生物がつくる食の”うまみ”

2010年10月15日

短期大学部醸造学科 教授 舘 博

日本人の食卓には欠かせないしょうゆ。実は微生物の仲間、カビの働きを利用して作られていることを知っていますか。ほかに味噌、ヨーグルト、チーズ、アルコール飲料など微生物の発酵作用を応用した食品はたくさんあります。
微生物がどのように働き私たちの食卓に出される食品となるのか、東京農業大学短期大学部醸造学科の舘 博 教授がしょうゆを例にあげて解説してくれます。

 

しょうゆ醸造と微生物

しょうゆの原料は大豆と小麦です。まず蒸煮した大豆と小麦に微生物である種麹をうえつけて麹を作ります。これに食塩水を加えて仕込んだものを「もろみ」といいます。さらに発酵・熟成させしぼってできたのが「生醤油」。「生醤油」に熱を加えてできる「濃口しょうゆ」は、一般的に調味料として広く使われていることはみなさんも知っていますね。

つまり、しょうゆは麹菌というカビを穀物に生やした麹を使ってできる調味料というわけです。そして麹に食塩水を加えて仕込む、「もろみ」の発酵・熟成中にもいくつかの微生物が生まれては消滅する様子がみられます。まず麹を食塩水につけることで、塩の濃度が高まり浸透圧による水分吸収が始まるので、非耐塩性(食塩の中で生きていけない)の微生物が消滅します。

代わりに耐塩性のある乳酸菌が増えますが、これも増えすぎると自ら死んでしまいます。その後にアルコール発酵をうながす酵母が増えていくという具合です。

 

味の決め手はアミノ酸

麹菌はしょうゆのうまみ成分を作るのに役立っています。昔からしょうゆの醸造では、「一麹、二櫂、三火入れ」(※1)と言われてきました。おいしいしょうゆを作るために麹菌の働きがいかに大事であるかを表しているのです。

麹菌に含まれる酵素により大豆・小麦のたんぱく質が分解され、アミノ酸が作られます。これがしょうゆのうまみ成分です。なお、しょうゆにはでんぶんが分解されて作られた糖類、食塩、乳酸菌、アルコール酵母などにより甘味・塩辛味・酸味・芳香があるうえに、このうまみ成分がプラスされています。いろいろな味が入っているからこそどんな食材にも合うのですね。

このように、麹を仕込む初期の段階でたんぱく質の分解が急速に進み、アミノ酸が作られることはわかっていますが、分解を助ける麹菌の酵素についてはまだその全貌が解明されていません。最近、XPAP(※2)という酵素が発見されました。この酵素は、たんぱく質→ペプチド(※3)→アミノ酸という大豆たんぱく質の分解において鍵酵素であることが明らかになりました。

 

環境に優しいしょうゆ風調味料!

麹を食塩水につけるのは雑菌の繁殖を防止するためですが、食塩水中の食塩はしょうゆを作る工程でしょうゆ粕として廃棄され、処理に手間がかかります。そこで、簡単なフィルム容器の中で食塩水を使わず、殺菌ずみの水を使い麹菌を純粋培養する方法が研究されています。これは環境保護に配慮した、新しい製造工程へのチャレンジといえるでしょう。

このような新しい作り方によりできるしょうゆは、従来の製造工程とは異なるために、JAS(日本農林規格)で決められた「しょうゆ」にはなりません。環境に優しい蕫しょうゆ風調味料﨟というところでしょうか。このように微生物の研究を利用して、新しい調味料を作り出すのも農学のおもしろさです。

 

 

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