東京農業大学

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教員コラム

エミューの生どら焼き

2013年10月9日

生物産業学部食品香粧学科 教授 永島 俊夫

オホーツク新食品誕生記(18)

新規地域資源の利用(1) エミューの産業化と地域活性

北海道にエミューが導入されたのは1995年、上川郡の下川エミュー牧場で、畜産目的でした。その後観光用としても注目され、翌年には猿払郡早来町、1997年には網走市稲富でも観光用として飼育が始まりました。エミューはオーストラリア原産の走鳥で、ダチョウよりもひと回り小さい体型をしています。食肉としてはもちろん、脂肪はマッサージオイルなどとしての機能がある高価なもので、卵も利用できることから、オーストラリアの原住民たちは万能の鳥として活用してきたそうです。

農大とのかかわりは、稲富の牧場から人工孵化の条件について研究委託があったことから始まり、その後は雌雄判別、肉の加工利用、脂肪の分離精製など、エミューについてのいろいろな研究協力をしてきました。その結果、大学発のベンチャー企業としてエミュー製品を中心とした会社、株式会社東京農大バイオインダストリーが設立されました。

そこで、これまであまり使われていなかったエミューの卵を利用する試みとして、地域のお菓子屋さんに依頼して「どら焼き」の開発をしてもらいました。従来の「どら焼き」とは違い、甘さを抑えて生クリームを餡とし、これをエミューの卵を使って焼いた皮で挟みました。「どら焼き」の皮はこれまでの鶏卵を使ったものとは違うソフトな食感になり、餡の生クリームととてもよく合いました。しかし、味については餡と皮とのバランスが悪く、塩味を何度も調整した結果、塩分はオホーツクの海洋深層水のみとし、食塩の添加はしないことにしました。その結果、食感と味のバランスが整い、いろいろな人たちに試食してもらったところ好評価が得られました。流通販売は冷凍で行い、食べるときに解凍してもらうことにしましたが、冷凍状態でもアイスクリームのように食べられ、いろいろな楽しみ方ができるのもヒットの要因かもしれません。

エミュー卵の特徴は鶏卵と比べて卵黄の割合が多く、一般成分組成は水分がやや少なく、その分タンパク質や脂質などの成分が多いことと、加熱した場合、鶏卵のように固くなりません。このことについて調べたところ、タンパク質を構成している熱凝固する成分が鶏卵より少ないためであることが明らかになりました。このような性質が「どら焼き」のソフトな食感となっているものと思われます。「どら焼き」は発売以来大ヒットを続けていますが、エミューは冬期間しか卵を生まないため、卵の確保が大変で毎月数量限定で製造している状態です。

株式会社東京農大バイオインダストリーを核としたエミューの生産、加工、販売の確立を目指した取り組みは、内閣府の「地方の元気再生事業」に採択され、牧場の整備、研究協力体制の強化、飼育のための一般市民の参加などによりエミューの頭数も増えて、現在は1,000羽を超えるほどになっています。原料としての課題は価格ですが、肉は食肉製品、卵は菓子類、脂肪は化粧品類に広く利用できることから、今後はさらに多くの製品が販売されるものと期待しています。

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