「マスせんべい」と「すり身ドーナツ」
2012年10月5日
生物産業学部食品香粧学科 教授 永島 俊夫
オホーツク新食品誕生記(9)
高品質な地域資源の活用(1) 水産資源の用途開発
これまではビール、発泡酒の開発について述べてきましたが、今回からはオホーツク地域の豊富で高品質な資源を活用した製品開発について紹介します。
オホーツク地域は水産資源が豊富で、サケ、マスの漁獲については全国有数の産地です。また、網走は冷凍すり身発祥の地でもあります。1960年に網走水産試験場で開発されて以降、洋上すり身の生産がはじまり、蒲鉾や竹輪などの水産練り製品の加工が飛躍的に伸びました。すり身は"SURIMI"という世界共通語にもなっています。そのような歴史的な背景もあり、これらの高品質な原料を使った加工品の開発に取り組みました。
水産加工についてはこれまでも市の水産課の委託を受け、本学でいろいろな製品開発に取り組んできました。しかし、報告書を提出するだけで終わってしまい、なかなか実際の製品とならないことが多かったため、開発企画の段階から製造会社と共同で進めることにしました。地域の水産加工会社数社に説明したところ、横山蒲鉾店が一緒に開発することに同意してくれ、双方で検討を重ねた結果、地域の特産物であるマスを使ったお土産品ということで、「マスせんべい」の開発に取り組みました。これは原料のマスをすり身状にして、副原料の小麦粉やデンプンなどと合わせて作ったものですが、原料の配合割合はマスを50%以上使用しており、原料の風味豊かな製品に仕上がりました。現在地域のお土産物店や空港売店などで販売されています。
また、すり身を利用した製品としては、蒲鉾や竹輪、さつま揚げなど、すでに数多くの水産練り製品がありますが、これを多くの人たちに好まれるようなお菓子にすることを試み、すり身を使ったドーナツを開発しました。これも地域の水産加工会社、大谷蒲鉾店と共同で取り組んだもので、小麦粉生地にすり潰したすり身を加えて生地を造り、味付けしたものです。これは従来のドーナツよりもタンパク質が豊富で、お菓子としてだけでなく、軽食にもなるような栄養的に優れた製品となりました。味はメイプル、プリン、キャラメルの3種類とし、「おさかなクン」という名称で、「マスせんべい」と同様、地域の土産物店や空港売店などで販売しています。
これらの開発は現代の若者の嗜好を考慮して、いずれも取り組んでくれた学生たちの意見を重視して進め製品化したものですが、この二つの製品は基本的な食品加工における両極端な例であるということができます。すなわち、「マスせんべい」は原料素材の良さをできるだけ生かした加工品であるのに対し、「おさかなクン」は逆に原料の品質は良いものであっても、製品にしたときには原料の特徴を全く感じない状態にして利用したものです。一般的な加工は前者がほとんどですが、場合によっては後者のようなやり方もあり、これらはどちらも食品加工における大変重要な技術であるということができます。