東京農業大学

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教員コラム

海洋酵母による発泡酒開発

2012年6月19日

生物産業学部食品香粧学科 教授 永島 俊夫

オホーツク新食品誕生記(7)

ビール・発泡酒の開発(6) 「海と大地の澄んだ生」の誕生

オホーツクキャンパスにおけるビールの開発研究は広く知られるようになってきました。そのようなことから、私の大学時代の先輩で三共株式会社(当時)に勤務されていた小玉健太郎氏(現在本学応用生物科学部生物応用化学科客員教授)より、「海から発酵力の強い酵母の探索を行ったところ、数株が分離された。これまでにそのうちからワインや清酒の醸造に向く酵母を選択し、製品化をしてきたが、さらにビールにも使ってみたい」という話がありました。ビールの醸造試験を行うことができるのは本学だけであったことから、早速その酵母13種類を送っていただき、ビール醸造の適正試験を行いました。そのうち麦汁を効率よく発酵し、風味も良好な株は9株ありました。その後、すっきりしたタイプのピルスナー系のビールに向くのか、あるいはコクのある濃色タイプのエール系に向くのかというビールのタイプ別にも試験を行いました。ある1つの株は両タイプの試験においても発酵速度が速く、発酵後は酸度、全糖、苦味価、真正エキスの値が高いことから、酸味、甘味、苦味を感じコクのある半面、ホルモール態窒素の値が低く、比較的すっきりしたタイプのビールになることが予想されました。低沸点香気成分を比較すると、n―プロパノール、酢酸イソアミル、イソブタノールなどが比較的多く、その組成は通常のビール酵母とはやや異なっていました。また、有機酸も酢酸とコハク酸がやや多く、クエン酸、リンゴ酸などが検出されました。官能評価とこれらの成分値を総合するとこれまでのビール酵母にはなかった特徴のある飲みやすいビールになることがわかり、この株はピルスナー系のビールに適しているものと考えました。また、同様にエール系に向く酵母についても検討し、最終的にそれぞれ最もビール醸造に適した海洋酵母各1株を選択し、100リットル規模の試験醸造を行い良好な結果が得られました。

このような醸造試験の結果をまとめて報告書を提出したところ、この試験結果に基づきサッポロビールがさらに検討を行い、「海と大地の澄んだ生」という商品名の発泡酒として製品化し、同社より発売されました。本学で行った試験ではやや酸味があり、少し癖のあるこれまでにない発泡酒となったのですが、サッポロビールの製品は比較的淡白で飲みやすいタイプに仕上がっていました。発泡酒の市場は大ヒットして定着するものもありますが、そのようなものは各社数種類のみで、多くは新製品と入れ替わっていきます。この「海と大地の澄んだ生」も2年間ほど販売されていましたが、今は製造されていません。しかし、本学のビール醸造研究の成果を大手ビール会社が製品化し、全国で販売されたことは大変意義深いことと感じています。同時に、サッポロビールでの製品化に向けてご尽力された三共株式会社(当時)の小玉氏はじめ関係された皆様に感謝しています。

 

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