特産のナガイモを原料に
2012年3月16日
生物産業学部食品香粧学科 教授 永島 俊夫
オホーツク新食品誕生記(5)
ビール・発泡酒の開発(4) 地域農業者グループを支援
網走の近くの東藻琴村(現在の大空町東藻琴)という地域の若手農業者グループ「東藻琴村21ノンキークラブ」より、自分達が生産した麦を使ってビールを造りたいという話がありました。その動機はグループ結成の何周年かにあたることを祝って派手にビールかけをやりたい、ということでした。自分たちで作った原料でビールを造ればビールを買わずに思い切り楽しむことができるということで私に相談に来たわけですが、ここで製造するビールは試験醸造免許であり、あくまでも研究用に製造が許可されたものなので、そのようなことをやったらすぐに試験免許の停止処分になってしまう、ということを説明しました。
それならば、記念の行事として自分たちの作った原料でビールの醸造をしてみないかということを勧め、東藻琴という地域は品質のよいナガイモの産地としても知られているので、ナガイモも原料に使ったらどうかという話をしたところ、彼らは大変驚いて、「ナガイモでビールができるならぜひ使ってみたい」、「それならば水も地元のおいしい湧水をもってくる」などということで盛り上がり、大変興味をもってくれました。ビールはデンプン質があればそれを糖化して発酵することができるので、イモ類は原料として使うことができます。中でもナガイモはイモ特有の風味も弱いため副原料として用いても問題はないし、粘りの成分は糖タンパク質であることから、加熱工程で粘性はほとんどなくなるものと思われます。ただし、このような製品は副原料の関係で酒税法では「発泡酒」に分類されます。
何回かビールについての勉強会を行ったあと、本学のビール醸造試験装置を用いて彼らと一緒に「ナガイモ発泡酒」の仕込みを行いました。1か月半ほどかけて完成した発泡酒は税務署の許可をいただき、地域で試飲会を行いました。ナガイモを使うことでその粘性成分の影響から泡立ちがよく、しかもきめ細かい泡の製品になりました。試飲会に出席された皆さんの評価は大変高く、「この発泡酒は今回限りで終わらせてしまうのはもったいない、何とか地域の地ビールとして販売したい」という強い要望が出ました。そこで、網走ビール㈱では発泡酒の免許を取得し、新たな発泡酒の製品化を模索しているところでもあったため、この「ナガイモ発泡酒」の醸造をお願いしたところ快諾していただき、農大におけるノウハウを提供して本製造が行われ、「ノンキー」という商品名で販売されることになりました。東藻琴は山の斜面全体に咲く芝桜で有名な地域で、毎年5月の連休前後には多くの観光客で賑わいますが、そこでこの「ノンキー」が販売され、東藻琴の地ビールとして知られるようになりました。
この農業者グループでは、自分たちで生産した原料を使い、大学や地域の協力により製品化された一連の取り組みについてまとめ、北海道青年農業者会議で発表したところ、これまでにこのような例はほとんどないことから、その内容が高く評価されて生活部門で「最優秀賞」を受賞、「優秀農業青年クラブ」にも選ばれました。