東京農業大学

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教員コラム

乳酸とヨーグルト世界最古の乳製品

2011年3月17日

乳酸といえば、まず乳酸菌を連想されると思います。そこで、乳酸菌はなぜ多量の乳酸を生産するのか?という話を前号で説明しました。今回は、乳酸菌(乳酸)の性質を巧みに利用した発酵食品の話です。ご存知のように、発酵食品とは農畜水産物を微生物の働きを利用して、保存性や呈味性などを向上させた食品をいいます。そして、世界中の様々な地域で、様々な民族が、数千年以上も前から、自然と共生しながらたゆまぬ努力と長い時間をかけて造りだしてきた特色ある食品でもあります。その種類は実に多く、多様性に富んでいますが、そのほとんど全てに、乳酸菌が主役あるいは脇役として関与しています。その理由は、乳酸菌は多種多様で自然界に広く存在すること、高い食塩濃度下で生育できること、様々な微生物と共存、共生できること、などの特徴があるからです。発酵食品の製造の歴史には、それらが誕生、継承されてきた地域の気候風土、人間の優れた知恵と経験の積み重ね、そして科学や技術の進歩が刻み込まれています。それ故、発酵食品は、人類の文化遺産ともいえるものであり、微生物の研究者にとってはまさに宝の山でもあるのです。

ところで、世界で最も古い発酵食品は何かといえば、恐らくヨーグルトです。ヨーグルトは乳から造られますから、その起源は動物の家畜化と関係していると思われます。山羊や羊は紀元前1万年頃、牛は紀元前8000年頃家畜化されたようですから、ヨーグルトもその頃、搾った乳に乳酸菌が入り偶発的に生まれたものと推察されます。乳に乳酸菌が入るとなぜヨーグルトができるか? 乳の中には乳糖という糖分が含まれています。乳酸菌は、この乳糖を栄養源として増殖し当然多量の乳酸を生成します。また、乳には、カルシウムやリンなどが結合したカゼインという特殊なタンパク質が2〜3%含まれています。このカゼイン分子は、幾つも集まって微粒子(1万分の1mm程度)となり、目には見えませんが、乳中に無数に浮かんでいます。このカゼイン粒子に乳酸が作用すると、カゼインに結合しているカルシウムが遊離してしまいます。すると、これらの粒子は構造を維持できなくなり、お互い同士が寄り集まり、幾つもがくっついて固まりとなります(凝固)。この経緯が、乳のヨーグルト化の主たる要因です。牛乳にレモンなどの酸味成分を加えたとき牛乳が固まるのも同じ原理1)です。なお、乳酸は、強い酸性状態を作り、抗菌作用もあるので、有害菌や雑菌などの増殖を抑え、ヨーグルトの保存性が高まるのです。また、乳酸の穏やかな酸味がヨーグルトの特徴ともなっているのです。

ちなみに、ヨーグルトの発祥地は定かではありませんが、語源はトルコ語のヨーグルトを意味するヨウルトから由来するとのこと。ヨーグルトが世界的に食されるようになったのは、今から100年程前、ノーベル賞受賞者のメチニコフ(露)が、ブルガリア地方に長寿者が多いのは、ヨーグルトを多く摂るからであると唱えたことに始まります。日本でも、大阪万国博以降、ブルガリアヨーグルトの登場により一気に消費が拡大しました。ヨーグルトは種類も多く、使用される乳酸菌も多種多様ですが、それらの話はいずれまた。3月は卒業シーズン。たくましく成長した生徒、学生に「努力を怠らなければ必ず感動と成功が待っている」と伝えたい。次号、乳酸につづく。

 

1)チーズ製造での乳の凝固は上記と異なるメカニズムです(本誌2009. 11月号参照)

 

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