東京農業大学

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教員コラム

パンの食感、うどんのこしグルテニンとグリアジン

2010年10月8日

東京農業大学短期大学部 醸造学科 教授
醸造学科食品微生物学研究室
前副学長
中西 載慶
主な共著:
『インターネットが教える日本人の食卓』東京農大出版会、『食品製造』・『微生物基礎』実教出版など

小麦は三大穀物(米、小麦、トウモロコシ)の中で、食材原料としての用途が最も広く、パスタ、めん類、菓子類、調味料、その他様々な加工食品に利用されています。そこで、デンプンの4回目は小麦の話です。小麦の原産地は中央アジアのコーカサス地方から西アジア(イラン、イラク)地域と推定され、紀元前8000〜7000年頃に栽培が始まったと考えられています。小麦は、米やトウモロコシと同様イネ科の植物ですが、米とは異なり、高温多湿な場所は栽培に適さず、主に乾燥地帯や寒冷地帯などで広く栽培されています。ところで、小麦の穂には多数の粒がたわわに実っている様子を想像しますが、古代の小麦は一つの穂に一つか二つしか粒がつかないものだったとのこと。種もみ一粒を蒔いて何粒の収穫が得られるかを表す指標を収穫倍率といいますが、小麦の収穫倍率は低く中世になっても3〜4倍程度だったようです。ちなみに、米は、奈良時代(8〜9世紀)で既に10〜20倍あったといわれていますから、小麦は米より効率の悪い作物といえます。現在では、品種改良などにより、小麦は100倍(※1)以上に、米は1000倍(※1)以上にも増加しています。

小麦の粒は、外皮(約13%)と胚乳(約84%)と胚芽(約3%)で構成され、製粉により外皮を除いた部分(主に胚乳)が食用に用いられます。胚乳の成分の約70%がデンプンで、タンパク質が7〜13%、その他水分、脂質、灰分などが含まれています。小麦粒の外皮はとても固く消化が悪いので、それを取り除くための製粉技術が、人類の歴史とともに石や石臼から水車、風車、粉砕機の利用へと発展してきました。製粉業は、今や一大産業です。小麦粉が主食となる理由は、米やトウモロコシと同様、そのデンプン含量の多さにあるのはいうまでもありません。しかし、小麦粉の最大の特徴は、パンやめん類への加工に重要なタンパク質(グルテン)にあります。そこで、グルテンの話を少しばかり。

小麦粉には弾力性をもつグルテニンと柔らかく伸びやすい性質のグリアジンという2つのタンパク質が含まれています。小麦粉に水を加えてよく練ると、この2つのタンパク質が複雑に作用して各々の性質を併せ持ったタンパク質(グルテン)が形成されるのです。これを顕微鏡で観察すると、グルテンが建物の骨組みのような網目構造を形成し、その間に大小様々なデンプン粒が沢山詰まっている様子が確認できます。これを加熱すると、デンプン粒がα化(前々号参照)することにより崩れ、グルテンの網目構造に密接に絡み合うこととなります。グルテンの骨格形成や網目構造は、小麦粉の性質や水分量や練り方に大きく影響を受けます。それ故、同じ小麦粉で同じ水分を加えても、機械でこねた場合と手でこねた場合ではグルテン構造の微妙な違いが生じ、その変化が、パンの食感やうどんの"こし"などに関係してくるのです。ここに手作りの魅力と職人の技が生きているのです。なお、小麦粉はグルテン形成能の違いにより、強力粉、中力粉、薄力粉などに分類され、強力粉は主にパンの製造に、中力粉はめん類の製造に利用されています。そして、グルテンの形成を抑えた菓子類の製造には薄力粉が利用されています。

秋は収穫の季節。とはいえ世界的な異常気象、日本も例年にない猛暑の夏でした。輸入に頼る小麦価格と農作物への影響が心配です。神頼みでもと思うのですが、今月は神無月、神様は出雲に出張中、出雲まではちょっと行けないもので…。次号につづく。


(※1)栽培方法や施肥の状況などによりかなり異なる。

 

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