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ニュースリリース

研究成果「卵子の品質保証機構解明に一歩近づく」英国生殖学会誌“Reproduction” 2021年 最優秀論文賞 受賞|バイオサイエンス学科 尾畑 やよい教授

2023年1月26日

教育・学術

 ほ乳類の一生は、卵子と精子が受精し胚発生することで開始します。胚発生を進行させ個体へと発生する能力、すなわち発生能は、卵子の品質によって大きく左右されることは経験的に知られていますが、この品質に一体どのような因子が寄与しているのかその全容は明らかでありません。生体内ではどのように高品質の卵子が発生・分化するのでしょうか?

 本研究では、マウスの未成長な卵子をシャーレの中で培養し、体外で成長させる技術を用いることで、このメカニズムの解明を目指しました。私たちは、低酸素環境で培養した卵子の発生能が向上(高品質化)することを見出しており、この高品質な卵子を、通常培養による低品質な卵子と比較しました。その結果、通常培養群でみられるミトコンドリアの活性低下が、低酸素培養群では改善していることがわかりました。通常培養による低品質な卵子ではスフィンゴ脂質と呼ばれる脂質グループを代謝する酵素の多くが異常発現しており、それに符号するようにミトコンドリア異常のトリガーとして知られるスフィンゴ脂質の一種(セラミド)の卵子含有量が増加していることがわかりました。その一方で、低酸素群においては、代謝酵素の発現異常やセラミド含有量の増加は見られず、生体由来の健全な卵子と同様のパターンを示しました(図1)。これらの結果は、卵子成長中のスフィンゴ脂質代謝がミトコンドリアの正常性と関連し、健全な胚発生を支えていることを示唆しています。

 本研究の成果は、卵子の成長過程における発生能の獲得メカニズムの一端を明らかにしただけでなく、卵子培養系の改善を通して、家畜の増産や希少動物の保全といった生物資源の有効活用につながることが期待されます。

  • 本研究はバイオサイエンス専攻の大学院生(高島友弥さん(2021年度修了、現 奈良県立医科大学)、藤丸翼さん(2019年度修了))と共に実施し、科研費(新学術領域「配偶子インテグリティ」18H05547)の助成を受けて実施しました。2023年1月に北アイルランドで開催された論文賞授与式に出席しました。
  • 本研究の成果はReproduction(https://doi.org/10.1530/REP-21-0209)に掲載されています。

 図1 研究のイメージ

 

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