【研究成果(共同)】新属を含む5種の新種微細藻類を発見、有用物質生産へ応用 | 分子微生物学科 豊島 拓樹 助教ら
2026年10月30日
教育・学術
究極の生命力を持つ光合成微生物の探索
–新属を含む5種の新種微細藻類を発見、有用物質生産へ応用–
研究のポイント
- 強い光にさらされる石壁や海岸の岩礁などから微細藻類を探索し、新属を含む計5種の新種を発見しました。
- 海岸から分離した1種は、クロレラ科の新属として「Apricichlorella」を命名し、新種記載しました。
- 単離した微細藻類は、高度のストレス付与に対して、細胞壁の肥厚、油滴の蓄積、葉緑体の形態変化、など個性のある生存戦略を示しました。過酷な環境を生き抜く未知の生命代謝を解明し、CO2から有用物質を生産する微生物資源としての活用を目指して研究を進めています。
概要
東京農業大学 生命科学部 分子微生物学科 資源生物工学研究室の豊島 拓樹 助教、川﨑 信治 教授らの研究グループは、広島大学、国立環境研究所、大阪工業大学との共同研究を含む一連の研究により、国内の身近な環境から、強光照射下で、かつ乾燥や高塩濃度などのストレス条件下でも生育できる微細藻類を探索し、計5種の新種を発見しました。
分離した株について、電子顕微鏡(走査型、透過型)による細胞の微細構造の観察と遺伝情報の解析を組み合わせ、既知種との違いを解析しました。また細胞内に高濃度の油滴を蓄えるなど、有用物質生産が期待される微細藻類が発見されました。
本成果は、本松秀夢さん(2025年博士前期課程修了)、森本芽依さん(2021年卒業)、川口遼太さん(2022年度博士前期課程修了)らをはじめとする成果で、過酷な環境には、これまでに知られていなかった多様な新種微細藻類が生息していることが明らかになりました。これらの研究成果は、学術誌『Phycological Research』に発表されました。
研究の背景
光は、植物や藻類が光合成を行うために欠かせませんが、過剰な光(強光)は、乾燥や塩分などの環境ストレスと重なると、細胞にダメージを与える活性酸素の発生を促進し、一般の光合成生物は枯死に至ります。
微細藻類は、地球上のあらゆる環境に生息しています。研究グループはこれまで、光酸化ストレスが発生する過酷な環境に生息する微細藻類を対象に、ユニークな生命応答を発見・研究してきました。研究室が保有する約200株の微細藻類コレクションには、多様な新種の存在が示唆されており、それらの系統分類を進めています。
研究内容と成果
1.強光が照射される乾燥した石壁から、Chloroidium属の2新種を発見
東京都内の石壁と道路脇のコンクリートから、Edo5株とGoa2株を分離しました。顕微鏡観察と遺伝情報の解析から、いずれもChloroidium属の新種と判断しChloroidium dehydrumとChloroidium satellitumを記載しました。
両種では、光酸化ストレス条件で葉緑体を細胞中央に配置したほか、細胞壁を未知の肥厚成分で覆い、かつ細胞内に多量の油滴を蓄積するなど、ストレスに伴うユニークな形態変化が確認されました (図1)。

図1 強光照射下の石壁から単離された新種Chloroidium dehydrum
2.高塩濃度にさらされる海岸の岩礁から、クロレラの新属と新種を発見
潮の満ち引きによって水に浸かったり露出したりする潮間帯として、広島県廿日市市の地御前海岸と、大分県豊後高田市の真玉海岸の岩礁から、それぞれMei-3株とMei-4株を分離しました。
Mei-4株は、遺伝情報に基づく系統関係とその特徴から、既存の属と区別されたため、新属Apricichlorellaを提案し、新属新種Apricichlorella intertidalisと命名、記載しました。Mei-3株はクロレラ属の新種と判明し、Chlorella intertidalisと命名、記載しました。
両種は過酷なストレス環境下で、細胞内に多量の脂質を蓄積し、A. intertidalisでは細胞壁の顕著な肥厚が確認されました (図2)。

図2. 潮間帯から単離したクロレラ科の新属 Apricichlorella intertidalis
3.強光照射下の木製の手すりから、気生藻の一種Elliptochloris属の新種を発見
栃木県日光市の木製の手すりから、WF1-2株を分離しました。細胞や葉緑体の形態、遺伝情報、RNAの構造を比較することで、近縁の既知種とは異なる新種と判断し、Elliptochloris lunarisと命名、記載しました。種名の「lunaris」は、成長に伴って変化する葉緑体の形が月の満ち欠けを連想させることに由来します (図3)。
この種は、強光と乾燥を組み合わせた条件に1か月間置いた後も、細胞の形態を大きく変化させることなく緑色を保つという、未知の適応能力を示しました。

図3. 強光照射下の木製の手すりから単離した気生藻類の新種 Elliptochloris lunaris
過酷な環境を生き抜く微細藻類には、私たちがまだ知らない多様な能力が秘められています。今回発見された株は、過酷な気候変動下でも良好に生息し、油脂生産などCO2から有用物質を生産する新たな微細藻類資源として活躍が期待されます。
論文情報
掲載誌:Phycological Research
論文1
著者:Hidemu Motomatsu, Ryota Kawaguchi, Hiroki Toyoshima, Shinji Kawasaki
論文名:Two microalgal strains, Chloroidium dehydrum sp. nov. and Chloroidium satellitum sp. nov. (Trebouxiophyceae, Chlorophyta), isolated under high light exposure conditions and exhibiting stress-induced morphological changes
DOI:https://doi.org/10.1111/pre.70008
論文2
著者:Mei Morimoto, Hiroki Toyoshima, Masaki Shimamura, Ryo Matsuzaki, Shunji Takeshita, Shinji Kawasaki
論文名:Apricichlorella intertidalis gen. et sp. nov. and Chlorella intertidalis sp. nov. (Chlorellaceae, Chlorellales), isolated from rock surfaces of the intertidal zone in Japan
DOI:https://doi.org/10.1111/pre.70022
論文3
著者:Hidemu Motomatsu, Hiroki Toyoshima, Shinji Kawasaki
論文名:Elliptochloris lunaris sp. nov. (Trebouxiophyceae, Chlorophyta), a new free-living Elliptochloris species isolated under high light conditions
DOI:https://doi.org/10.1111/pre.70051
