研究成果(共同)「植物の ”生命の設計図を守る仕組み” が、水不足や暑さに耐える力を生み出していた!」 | バイオサイエンス学科 太治 輝昭 教授ら
2025年10月8日
教育・学術
植物の「生命の設計図を守る仕組み」が、水不足や暑さに耐える力を生み出していた!
〜ゲノム修復・転写制御因子UVH6が、水不足や熱に対する植物の耐性を制御する新しいメカニズムを発見〜
研究内容
東京農業大学 生命科学部 バイオサイエンス学科の太治 輝昭 教授らの研究グループ*1は、植物の遺伝子修復と遺伝子発現(転写)の両方を担う重要なタンパク質 「UVH6」 が、乾燥や塩分過多といった浸透圧(水欠乏)ストレスや高温ストレスに対する植物の耐性を制御する、これまでに知られていなかったメカニズムを明らかにしました。
本成果は、小林 晃也さん(2024年博士前期課程卒)、村越 祐介さん(博士後期課程)らをはじめとする成果で、国際誌Frontiers in Plant Science (IF 4.8)に掲載されました。
研究のポイント
・【二重機能を持つタンパク質】 UVH6は、DNAの損傷を修復する機能(NER:ヌクレオチド除去修復)と、遺伝子のスイッチを入れる機能(転写制御)の二役をこなす、植物の生存に不可欠なタンパク質です。
・【耐性低下の原因を特定】 研究グループは、水欠乏に弱くなったシロイヌナズナの変異体(aod12)を特定し、その原因遺伝子がUVH6であることを突き止めました。この変異体は、水欠乏だけでなく高温にも弱いことが判明しました。
・【修復とは別の役割が重要】 驚くべきことに、このUVH6の「水欠乏・暑さへの耐性」機能は、DNA修復機能とは独立して働いていることが示されました。他のDNA修復タンパク質が壊れても水欠乏に弱くならなかったことから、UVH6の「遺伝子のスイッチを入れる(転写制御)」役割こそが、ストレス耐性に大きく寄与していることが強く示唆されました。
・【防御反応の暴走を抑制】 aod12変異体では、水欠乏ストレス下で植物の免疫応答が過剰に活性化し、この免疫防御反応の「暴走」が、かえって植物自身の生きる力を損なっていることが分かりました。UVH6は、この免疫応答の暴走を抑制することで、植物の耐性を維持していると考えられます。
研究の意義と今後の展望
本研究は、これまで主にDNA修復因子として知られてきたUVH6が、植物が環境ストレスに立ち向かうための「指令塔」(転写制御)としても機能していることを初めて示しました。
地球温暖化や異常気象により、農業における乾燥・高温ストレスは深刻化しています。本研究で明らかになった「UVH6によるストレス耐性調節機構」は、将来的に乾燥や猛暑に強い作物を開発するための、新しい遺伝子育種のターゲットとなることが期待されます。
本研究はJSPS科研費(基盤A: JP23H00334、学術変革領域A(植物シンプラスト: JP25H01341、不均一環境と植物: JP23H04206))の助成を受けたものです。
【*1研究体制】
東京農業大学大学院 生命科学研究科
太治 輝昭 教授、坂田 洋一 教授、四井 いずみ 助教
東京農業大学大学院 生命科学研究科
小林 晃也(当時)、村越 祐介、金盛 一起(当時)
千葉大学 宇宙園芸研究センター
日出 間純 教授
東京農業大学 生物資源ゲノム解析センター
増田 悟郎 研究員、田中 啓介 助教(当時)
論文情報
論文タイトル:UVH6 regulates osmotic and heat stress tolerance by modulating transcription
著者:Koya Kobayashia, Yusuke Murakoshia, Kazuki Kanamori, Jun Hidema, Goro Masuda, Keisuke Tanaka, Izumi Yotsui, Yoichi Sakata and Teruaki Taji
a 共同筆頭著者
掲載誌:Frontiers in Plant Science (IF 4.8)
URL: https://doi.org/10.3389/fpls.2025.1623563