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ニュースリリース

研究成果(共同)「熱帯林における根の共生微生物“菌根菌”の栄養獲得様式を解明」 | 北方圏農学科 岡田 慶一 助教

2024年2月9日

教育・学術

研究成果のハイライト

  • 栄養の制限された熱帯林の土壌では、菌根菌は栄養吸収する面積を増やすよりも、酵素活性を高めて適応する。
  • リン欠乏下では、菌根菌はリン獲得酵素よりも窒素獲得酵素活性を高めている。
  • 生産性が低く宿主樹木からの供給が少ない環境下では、菌根菌自ら有機物を分解して炭素獲得する腐生的な機能を発動させている可能性がある。

研究の概要

熱帯の森林生態系では、強い風化作用によってリンが不足しており、温暖な環境とは裏腹に栄養の制限された厳しい環境にあります。そのような栄養制限可でも樹木や微生物は生存するための様々な仕組みを持っています。そのうち、樹木と根で共生している菌根菌と呼ばれる菌類は、有機物を分解してリンや窒素を獲得する高い機能を持っていますが、その機能を熱帯林で詳細に調べた事例はほとんどありませんでした。今回、東京農業大学岡田慶一助教らは、ボルネオ島キナバル山の熱帯雨林で、これら菌根菌が栄養制限下でどのように栄養獲得しているのかを調査・解析しました。

 この研究では、菌根菌が栄養を得るために分泌している酵素の活性を測定しました。これらの酵素は、炭素、窒素、リンを含む有機物を分解して、植物が使える形に変える役割を持っています。菌根菌が栄養素を獲得する能力は“どれだけ土壌を探索できるか(探索能力)”と、その探索した面積における“酵素の活性”によって決まります。研究では、この二つの要素がどのようにして外生菌根の酵素活性に影響を与えるのか、そして土壌の栄養条件がこの関係にどう影響するのかを調べました。

 結果として、外生菌根菌は栄養の制限された環境では、探索能力を高めるよりも酵素活性を高めることで栄養素を得ようとすることがわかりました。特に、樹木の光合成生産が低く、土壌中の利用可能なリンの量が少ないほど、各酵素活性が高まる傾向が確認できました。これは、植物からの炭素の供給が限られているため、菌類がより効率的に栄養素を得ようとする戦略を取っている可能性を示しています。この研究で明らかになった、熱帯の生態系における外生菌根の栄養素獲得に関する適応機構は、熱帯林の生態系が維持される仕組みの解明に貢献すると期待されます。

図 樹木と菌根菌を介した栄養の流れと(上)菌根菌の栄養獲得能力に関わる要素(下)

用語解説

菌根菌(きんこんきん):
植物の根の表面や内部に着生した菌糸体が形成する菌根によって植物と共生する菌類です。形態によって様々なタイプの菌根菌が存在しますが、このうち外生菌根菌は主にきのこの仲間の菌類であり、マツやブナ、カバノキなどの大型樹木と共生関係を結びます。マツタケはマツと共生する外生菌根菌の典型例です。

発表雑誌

Okada, K., Yokoyama, D., Aiba, S., Kitayama K. 
Exploration capacity versus specific enzymatic activity of ectomycorrhizas in response to primary productivity and soil phosphorus availability in Bornean tropical rainforests.
Scientific Reports 14, 2842 (2024).
https://doi.org/10.1038/s41598-024-53234-60

研究体制

岡田慶一1、横山大稀2、相場慎一郎3、北山兼弘4

  1. 東京農業大学生物産業学部北方圏農学科
  2. 理化学研究所環境資源科学研究センター
  3. 北海道大学大学院環境科学院
  4. 京都大学農学研究科

研究助成金

科学研究費補助金:基盤研究(A) 18255003, 22255002, 23255003, 基盤研究(B)15370011, 基盤研究(C) 22K05730
藤原ナチュラルヒストリー振興財団
笹川科学研究助成

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