フィールド生物資源保全分野 生態系保全学研究室
オホーツクキャンパスのある北海道東部は、世界自然遺産「知床」のほか、釧路湿原や小清水原生花園、阿寒湖などに代表される森林・湿原・湖沼・海浜などの多様な自然環境に恵まれた地域です。当研究室ではこの立地条件を最大限に活かし、様々なフィールドにおいて野生動植物の基礎的な生態調査手法を学ぶほか、生態系の保全・再生・管理に関する実習や調査研究を通し、自然と共生した社会の実現に寄与できる人材の育成を目指しています。研究面では、動植物の種生態や個体群動態、森林や湿原の生態系の物質循環などの基礎研究に加え、地域の関係者と連携し、対象生物の種特性をふまえた保全・再生や持続的な生態系管理に関する実践的なテーマに取り組んでいます。
KEYWORDS
生態学、森林、湿原、鳥類、フィールドワーク
当研究室では、森林や湿原、海浜など北海道の豊かな自然をフィールドとした生態系の保全に資する教育研究を行っています。野生動植物の基礎生態研究に加え、自然再生や生態系の持続的管理などに関する応用的な研究にも取り組んでいます。
所属教員
研究紹介
中村 隆俊 教授
湿原環境とミズゴケについて研究しています。湿原の植生はスゲ・ヨシタイプからミズゴケタイプへと遷移しますが、それに伴い土壌は著しく酸性化します。その強酸性土壌は、湿原植物の生態生理的振る舞いに強く影響するため、大変重要な環境特性として注目されてきました。しかし、湿原がなぜ強酸性化するのかについては、欧米を中心に50年も前から議論が続いており、現在も決着がつかない古くて新しい謎となっています。私たちはミズゴケ自身が強酸性環境を作り出している可能性に着目し、その謎を解明すべく湿原各地で調査しています。
白木 彩子 准教授
野鳥の生態と保全に関する研究を行っています。とくに、北海道を代表する希少猛禽類のオジロワシとオオワシを対象に、個体群の長期動態とその要因の解明を軸とした研究を展開しています。具体的には、生息数や分布、繁殖状況などを継続的にモニターし、それらの変化と餌や生息環境などとの関係を明らかにすることや、ロシアで繁殖するオオワシの渡り経路の追跡調査などを実施しています。ワシ類は生息環境の悪化や風力発電用風車との衝突事故などさまざまな保全上の問題を抱えており、研究の成果はこれらの問題の解決に貢献するものです。
岡田 慶一 助教
森林地下部の植物根や菌根菌を主に研究しています。森林では、生物が競争し合う中で栄養を循環させる様々な仕組みが働いています。その生物間の共進化の過程で誕生したのが「菌根共生」です。樹木と菌類の共生体である菌根では、樹木から菌類に炭素を、菌類から樹木に窒素などの土壌栄養を供給しています。この菌根共生が、倒木更新におけるの樹木の生存やキノコを作る菌根菌の子実体発生とどのように関係しているのか。また森林生態系の栄養循環にどのように役立っているのか。道東の原生的な針広混交林をベースに調査しています。
研究室活動の様子
毎年秋になると研究室の学生が総出で道路法面の緑化活動「きたはなプロジェクト」の苗移植会に参加します。「きたはなプロジェクト」では、外来牧草で被覆された殺風景な道路法面に対して、エゾスカシユリ等の原生花園(海浜草原)自生種を播種・移植し、花咲く景観へと導くことが大きな目的となっています。行政・教育・研究機関や住民、企業など多様な団体がそれぞれ得意分野を生かしながら長年続けている緑化活動ですが、当研究室は原生花園自生種の移植・導入技術を開発するという重要な役割をずっと担っています。国道244号線の網走市北浜地区にある約2kmの道路法面、初夏には知られざる原生花園が出現します。
森や草原、山などの陸域だけでなく、河川や湖沼などの内水域とオホーツク海をフィールドにした鳥類の調査研究を展開しています。ここ数年は小型船での海鳥の調査実習や卒論研究を行っているほか、濤沸湖周辺で地元の野鳥観察者の方々と一緒に、天然記念物ヒシクイなどのガン類の生息数や塒入りなどの調査をしています。また、動物生態学系の学生は例年2月に、市民向け卒論発表会で卒業研究の成果を地域の方々に披露します。
道東地域の森林を再生・保全する活動に、研究面で協力しています。世界自然遺産の知床では、開拓跡地を森林再生する100平方メートル運動地にて、樹木多様化やシカ食害対策に関する事業の効果を調査検証しています。巨木が多く残されている阿寒では、シカの個体数管理が樹皮はぎの被害状況とどれだけ関係しているかや、次世代の樹木が更新しているかを継続調査しています。これらの調査では、毎年卒業研究で学生が取り組んでいます。