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ニュースリリース

研究成果「ブロッコリー由来成分スルフォラファンによる抗肥満効果の分子機構を解明」|農芸化学科 井上 順 教授

2022年5月30日

教育・学術

 東京農業大学は、転写因子SREBP(*1)の活性を低下させ脂質合成を抑制する食品由来成分として、ブロッコリー由来のイソチオシアネートであるスルフォラファンを見出しました。これは、東京農業大学応用生物科学部 農芸化学科 井上 順 教授らが、東京大学との共同研究(*2)によって得た成果です。

 今回の研究成果は、科学雑誌「Scientific Reports」(IF=4.379, オンライン5月24日付)に掲載されました。

発表のポイント

  • イソチオシアネート「スルフォラファン」が転写因子SREBPの活性を抑制することを明らかにしました。
  • スルフォラファンは前駆体SREBPタンパク質に作用し、ユビキチン-プロテアソーム経路を介した分解を促すことを明らかにしました。
  • スルフォラファンの新たな作用点の解明は、科学的根拠をもつ機能性食品として応用されることが期待されます。

発表概要

 肥満や糖尿病などの生活習慣病は脂質代謝の破綻を発症基盤とする疾患です。その調節機構の中心に転写因子SREBPが存在します。SREBPの過剰な活性化は脂質合成を過度に促進し、脂肪肝やインスリン抵抗性を惹起することが知られています。したがって、生活習慣病予防のためにはSREBP活性を適度に抑制することが望まれます。
 東京農業大学 応用生物科学部 農芸化学科 井上順教授らの研究グループは、SREBPの活性を低下させ脂質合成を抑制する食品由来成分として、ブロッコリー由来のイソチオシアネートであるスルフォラファンを見出しました。スルフォラファンは前駆体SREBPに作用し、ユビキチン-プロテアソーム経路を介した分解を促進することを明らかにしました。この分解はSCAPの非存在下にも起こることに加え、これまでにスルフォラファンにより活性化されることが報告されているKeap1-Nrf2経路を介さずに起こることを示しました。また、スルフォラファン処理により、SREBPのC末端側がポリユビキチン化を受けることを明らかにしました。
 以上の結果から、スルフォラファンは前駆体SREBPのC末端側のポリユビキチン化を促進し、プロテアソーム分解を引き起こすことで、SREBP活性を抑制すること解明しました。スルフォラファンはブロッコリー由来のイソチオシアネートであり、抗酸化や解毒作用を示す成分として知られています。これまでに抗肥満効果も報告されていますが、その詳細なメカニズムは解明されていませんでした。本研究では、スルフォラファンが脂質合成のマスターレギュレーターであるSREBPの活性を制御することを発見し、その作用が抗肥満に寄与することを示すとともに、分子レベルでの作用メカニズムを解明しました。この成果は、生活習慣病予防に関して科学的エビデンスに基づく新たな機能性食品の開発へ応用されることが期待されます。


 本研究は、JSPS科研費(18H02150, 21H02145)および東京農業大学 大学院先導的実学研究プロジェクトの助成を受けたものです。

  • *1用語解説:
     SREBP (sterol regulatory element-binding protein)
     細胞内の脂質代謝制御の中枢を担う転写因子です。ステロール枯渇下やインスリン刺激時にプロセシングを受け活性化し、脂肪酸・コレステロール合成系酵素の遺伝子発現を誘導することにより脂質合成を促進します。II型糖尿病マウスの肝臓ではSREBPの発現、プロセシングが過剰に亢進していること、その活性抑制により病状が改善することなどが報告されており、SREBPは抗生活習慣病のターゲットとして有効であると考えられます。
  • *2研究体制
    東京農業大学 応用生物科学部 農芸化学科
    研究代表者 井上 順 教授
    小高 愛未 博士研究員、菊地 瑛登(当時 博士前期課程)、松永 優輝(当時 博士前期課程)、正路 健太(当時 博士前期課程)、松本 雄宇(当時 助教)、鈴木 司 准教授、山本 祐司 教授

    東京農業大学大学院 生命科学部 分子生命化学科
    武田 圭太(当時 博士前期課程)、勝田 亮 准教授、石神 健 教授

    東京大学大学院 農学生命科学研究科
    宮田 慎吾(当時 博士課程)、Yen-Chou Kuan(当時 博士課程)、岩瀬 将盛(当時 修士課程)、佐藤 隆一郎 特任教授

図 スルフォラファンによるSREBPの分解促進

 前駆体SREBPはSCAPと複合体を形成し小胞体膜上に留まっています。スルフォラファンは、ユビキチン-プロテアソーム経路を介して前駆体SREBPの分解を引き起こすことで、SREBP活性を抑制します。

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