東京農業大学

メニュー

教員コラム

酪農家が始めたマイクロミルクプラント地域の味と健康を守るオホーツクあばしり牛乳

2016年4月1日

名誉教授 美土路 知之

オホーツクの地域資源 Foods Who(4)

 オホーツク海を見渡す天都山から秀峰・斜里岳方面に目をやると、町並みはずれの牧草畑に隣接して赤い小さな屋根の建物が見える。その建屋が日産千本足らずの「オホーツクあばしり牛乳」のマイクロプラントである。
 切り盛りするのはオホーツクディリーファーマーズの楠目社長で、楠目牧場の経営主でもある。1990年のプラント設立以来、4半世紀にわたって「こだわる」のは、地域をおいしく健康にするビジネスの展開にある。
 その第一は、工場と道を隔てた目の前の牧場で搾った新鮮な生乳を使っていること。しかも泌乳量の多いホルスタイン種と乳脂率の高いジャージ種を混合で飼い、味もコクも豊かな牛乳にしている。
 第二は、生乳の質を高めるために飼養頭数を抑えていること。北海道平均を下回る経営規模で、滋味溢れる土と栄養価の高い牧草、その草が生み出す生乳、すなわち、土・草・牛の好循環と適正規模があげられる。
 第三は、生乳の処理は65℃の低温で30分間殺菌されること(多くのメーカー牛乳の130℃2〜3秒殺菌)で、タンパク質や脂肪分の熱変成を抑えつつ、新鮮でサラッとした味、牛乳独特のコクや風味に溢れている。
 第四は、封入する1㍑パック容器の紙質と封印のための糊に工夫が凝らされている(大阪の紙工業者からの取り寄せ)こと。
 大量生産の逆をいく発想で、高い品質の牛乳を限られた数量だけ出荷しているところにマイクロプラントの強みが発揮されている。
 出荷先は近隣地域に限定され、安定したクライアント獲得につながっている。マチのスーパー店頭では、メーカー牛乳の値札は178〜198円に対し、あばしり牛乳は228〜238円(税抜き)で、それでもワケ知りの人々は毎日買っていく信頼関係が構築されている。
 また、乳酸菌などの善玉菌がいきる低温殺菌は、子どもやお年寄りの健康管理にも寄与している。以前、老人施設向けに出荷していたビン牛乳が、予算節減からキャンセルされた時期があった。しかし、便秘になる入居者が相次ぎ、中には病院のお世話になるお年寄りも出てきて、医療費や介護職員の人件費のほうが高くついてしまい、この牛乳復活となったことがある。
 笑い話のようだが、質の高さと日々の健康管理に寄与していることの証左でもあろう。また、牛乳だけではなく、アイスクリームやスィーツ類の原材料にも使われ、オホーツクのオンリーワン素材のひとつにもなっている。


ページの先頭へ

受験生の方