東京農業大学

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教員コラム

スポーツと芝

2017年3月1日

地域環境科学部造園科学科 教授 高橋新平

競技場と芝草

 スポーツ競技場、練習場、屋内外のグラウンドのインフィールドなどでは芝草が造成・育成され各種競技のフィールドとして利活用されることが多くなった。科学的根拠のもとで維持・管理・運営されている競技場フィールドの芝草や芝生(地)を総称してスポーツターフ(sports turf)と呼び、牧草地や自然草地を構成するイネ科草本植物(lawn・grass)の中からスポーツターフ用に選択・育種された植物(芝草)をターフ(turf)と呼びlawnやgrassと区別している。
 スポーツターフには各競技のルールや各競技の公式戦に対応して、ボールの転がり、ボールの跳ね返り、ターフを含めた土壌表面の硬さ、ターフの緑色度合いなど一定のクオリティーが要求され、その維持や管理に多くの技術と労力と時間が費やされる。
 国際的な公認試合が開催できる競技場の条件には、6〜7万人以上の観客席の設置など多くの要件があり、施設の大規模化が免れない状況である。建設された競技場の事例では観客席を覆う広い屋根が大切な競技フィールドに日陰をつくり、多くの日照時間を必要とするスポーツターフの育成や維持・管理が困難になっている。
 また、テレビ中継されるゴルフ、サッカー、ラグビー等の競技でも緑色ターフクオリティーが鮮明に認識でき、勝敗への影響も同時に中継される場面がある。このようなスポーツはルールによって生きている芝生の上での競技が必須となっているため、1年中のどの季節でも緑一面の均一なクオリティーが要求され、そのようなフィールドを提供できる競技場であることの期待が大きい。


スポーツターフとして利活用される芝草

 スポーツターフは暖地型と寒地型芝草に大別される。
例えば、テレビで放映されるサッカーJリーグ戦やラグビー戦の競技場では、一般的に暖地型と寒地型芝草が混植されている。映像からはその種類識別は困難であるが、春季から夏季には暖地型の緑色芝草が、気温が低下する秋季から早春季には寒地型芝草の緑がフィールドを被覆している。緑一色の絨毯のように見えるフィールドには、ターフクオリティーを維持管理するための科学的な芝草の種類選択、ターフ表面が安定しやすい土壌(砂)基盤、茎や根の伸長を促す特別な砂による給水と排水など長年にわたる調査研究の成果が応用・展開されている。


芝草の適応と支える管理技術

 国土面積が狭いとされる日本であるが、スポーツターフや芝生地が造成・管理される競技場やグラウンド、公園や緑地、ゴルフ場、あるいは文部科学省や各自治体が支援する小中学校グラウンドの芝生地までを対象に、芝草や芝生地が存在する立地環境とその地域に目を広げると、積雪寒冷の北海道や亜熱帯環境の沖縄に至る気象環境が顕著に異なる地域、台風や海の影響を顕著に受ける沿岸地域や季節の寒暖差が大きい標高の高い地域などさまざまな立地環境が認識できる。土地表面やさまざまなフィールドの表面を被覆する緑の芝草や芝生地はこのような環境に適応して生育し人為的環境下で維持している種類が多い。
 また一方、人口が集中する温暖帯地域の関東関西地域などでは生活の利便性もあり各種競技場、屋内外のグラウンド、都市公園緑地、ゴルフ場、学校の校庭などが多く立地する生活環境となり、このような空間環境における芝草や芝生地の利活用は極めて顕著である。
 例えば都市や近郊のスタジアムを会場とした大規模なコンサートやイベントでは、スタジアムの芝生フィールドの上面にプラスチック製の床板を設置して観客者の利用を可能にしている。その間、芝生フィールドには太陽光が照射されない暗黒の時間帯が存在する。従ってスタジアム管理者や芝生フィールド管理者間の協議によって利用時間に制限が課せられている。生きた芝生を維持するための極めて大切な管理運営マネージメントの一例である。
また、各種の競技やイベントなど過剰な利用による人間の踏圧で葉部、茎部、根部に損傷を受ける。スポーツ競技では特に選手のスパイクシューズによる物理的損傷も大きい。
 損傷したこのような芝生地の一部を剥ぎ取り補修する技術、フィールドに種子を播き発芽育成回復する技術、人工的生育環境の提供による生育回復技術、芝草葉身分析による栄養健康診断に関わる分析技術など芝草や芝生地を支える多くの技術が開発され、現在もなお技術発展している。また芝生フィールドを保護し永続的に利用する点からインフィールド内でのスポーツドリンク飲用を制限し管理運営することが重要であるとする考えも存在する。


調査研究の必要性

 生育している植物の葉部や茎部の上部を利用して、激しい動きのスポーツ競技が展開される。イネ科草本植物である暖地型芝草のZoysia属やCynodon属、寒地型芝草であるLolium属の芝草類が主体となって競技フィールドが支えられている。近年に取り組んできた調査研究の一例を列挙して、「実学主義」を基にしたいくつかの検証事例と内容について以下に示した。

・スタジアムの日照時間の相違がターフクオリティーに与える影響
・競技場におけるイベントが芝草生育に与える影響
・芝草葉身の成分分析と芝生管理の関連性について
・競技場芝生フィールドの芝草生育に与えるスポーツドリンクの影響
・踏圧下におけるZoysia芝草のエチレンと糖分変化
・グラウンドの相違がサッカー選手の身体損傷に与える影響について、など


管理技術者を目指す学生たち

 将来の仕事としてレクリエーション・体育施設の造成や管理、スポーツターフ管理技術者を目指す学生たちが緩やかであるが確実に増加している。専門領域分野がそのまま職業に連動することは極めて重要である。全国のゴルフ場や各種競技場の芝生フィールド管理者には多くの卒業生が従事する。2019年ラグビーワールドカップ、2020年の東京オリンピック会場を多くの技術によって支える管理技術者を応援したい。

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