東京農業大学

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教員コラム

心の燃料から車の燃料までアルコールを食品に変える

2010年8月2日

東京農業大学短期大学部 醸造学科 教授
醸造学科食品微生物学研究室
前副学長
中西 載慶
主な共著:
『インターネットが教える日本人の食卓』東京農大出版会、『食品製造』・『微生物基礎』実教出版など

車はガソリンで走る。ガソリンは石油を精製してつくる。石油は、2億年ほど前、海や湖のプランクトンや藻などの死骸が地熱やバクテリアの作用を受けてできたという。この石油、産出国が非常に限られている。残念至極、せめて日本に、サウジアラビアやイランの十分の一でもあれば、年金問題など一挙に解決するかもしれない。もっとも、石油もあと50年程で枯渇するとの予測、あるものが無くなるよりは、はじめから無いほうが幸せかもしれません。無ければ無いで知恵が沸くということもありますから。 原油価格の高騰、炭酸ガス排出規制などなど、もはやガソリンだけで車を走らせるのは無理な時代に突入しました。そこで、ガソリンの代替燃料として、太陽電池、水素、メタノールなどが有望視されていますが、いずれも難問山積み、一朝一夕にはいきません。とりあえず、ガソリン節約法の一つとして、ガソリンにアルコールを混合した燃料で走るアルコール車の普及を世界各国が進めています。その先進国はブラジルで、ガソリンにアルコールを24%も混入しています。ブラジルはサトウキビ(砂糖)の最大生産国、そこで砂糖から酵母によりアルコールをつくっている。サトウキビは毎年育つ、アルコールは永久につくれるということです。

アルコール車の導入は日本にとっても重要な課題で、環境省も将来、今のレギュラーガソリンをE10ガソリン(アルコールを10%混合したガソリン)に置き換える方向で検討を始めています。しかし同時に、日本でも、アルコールを安く大量につくる方法も開発しなければなりません。もし、廃棄物からアルコールができれば一石二鳥、理想的というわけで、生ゴミや建築廃材などを対象に研究も進められています。

筆者も、負けじと、思い切って雑草からアルコールをつくる研究を開始しました。アルコール原料としては、デンプンあるいは砂糖などの糖分をたくさん含んでいるものが最適です。しかし、雑草には、それらがほとんど含まれていませんが、セルロースと呼ばれる多糖類が平均30%程度含まれています。このセルロース、基本的にはデンプンと同様にブドウ糖が多数連結したものなので、理論的にはこのブドウ糖からアルコールをつくることができます。とはいえ、雑草の構造はかなり複雑で、その中のセルロースもデンプンと比べると、とてつもなく分解し難い性質です。それゆえ、このセルロースをアルコール発酵可能なブドウ糖まで分解するためには雑草の前処理法が必要になります。そこで、筆者らは、電気を利用する雑草の処理法を考案し、次にカビの酵素と酵母を用いてアルコールを製造する方法を開発しました。この方法によると、雑草(乾物)1㎏から110〜120gのアルコールをつくることができます。実用性となると、はるか彼方のことですが、高速道路や川原の雑草からエネルギーをつくる、夢のある話と思いませんか。

アルコールは、今回をもって終了です。 次回は「塩」にまつわる話です。

酵母

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