東京農業大学

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教員コラム

ミラノ万博日本館「Harmonious Diversity−共存する多様性−」・・・・日本の農林水産資源や食の持続的な国際情報発信を見据えて・・・・

2015年11月1日

地域環境科学部 森林総合科学科 教授 江口 文陽(2015年ミラノ万博日本館サポーター)

人気パビリオン日本館が伝えたもの

 イタリア経済と世界的なファッションの中心都市でもあるミラノで国際博覧会(EXPO Milano 2015)が開催された。Feeding the Planet, Energy for Life(地球に食料を、生命にエネルギーを)がメインテーマであり、2015年5月1日から10月31日の184日の期間中に約2000万人(日本館来館者数は200万人突破)が訪れた。
 日本館は万博会場内で最も人気のあるパビリオンの一つ、開催国のイタリア館と並び行列の絶えないパビリオンであった。私が訪問した際にも日本館入館のための待ち時間は2〜3時間であったが、行列をつくる各国の来場者は、日本館に展示されている日本の食材や文化・伝統に触れることに期待を寄せる言葉を交わしていた。日本館の見学を終えて日本館レストランで食事をしている数カ国の方々に日本館の感想を尋ねると綿密に構成されたシステムと日本の技術、日本らしい心や所作、食材のみならず器や料理の盛り方などへの気配りに感銘したとの声を聴くことができた。
 ミラノ万博日本館は、「Harmonious Diversity ─共存する多様性─」を出展テーマに日本の農林水産業や食を取り巻くさまざまな取り組み、「日本食」や「日本食文化」に詰め込まれたさまざまな知恵や技と心が、人類共通の課題解決に貢献するとともに多様で持続可能な未来の共生社会を切りひらくといったメッセージの発信を目指した。

 

持続的な循環型社会の構築を提案した立体木格子

 日本館の立体木格子の技術は、木材関連の学問や技術を学ぶ者のみならず多くの方々に必見の構造とデザインであった。立体木格子は、法隆寺などの伝統的な日本建築物に用いられる技術だ。継手・仕口の木材どうしの組み合わせで、めり込み作用がつくられ、金属の鎹や釘などを使わなくても構造的に強い造作が施される。
 日本国内で生育したカラマツを集成材に加工して使用された。一般的な木材造作物は木材の特徴である腐る・割れる・狂う・変色する・燃えるなどの欠点を補うため防腐防虫や寸度安定などのために薬剤が加圧注入法などを用いて処理されるが、万博の期間は短いことなどから木材保存処理は行われていないようであった。日本館の外観に施工されたカラマツの材は、太陽の光や風雨にもさらされ自然の木目の風合が日本らしさを演出していた。
 日本館の外観に木材を活用したことは、再生することの可能な資源活用を意図し、森林の整備保全と水源涵養、水は大地、海洋、大気へと還元されることにより、人類に多様な食材をもたらすことを世界に発信したものである。森林の育成や保全は、源流の河川水のみならず深層水や海洋水と密接に結びつき、持続的な循環型社会を育むための源なのだ。

 

食は人々のこころの絆を育むもの

 日本の急峻な山々に積もった雪解け水は、森林土壌に留まり、長い年月を経て大地に注がれる。すなわち豊かに生態系が貯えた良質なミネラルを含む水資源は、自然と共生する農林水産業の営みを可能なものとする。良い環境で生育した山海の食資源を「一汁三菜」、「発酵・天日干し」、「出汁・うま味」、「口内調味」といった知識や技法によって食事として摂食することが健康なからだづくりに役立つのだ。
 日本の食は、日本の伝統のみを重んずるばかりではなく、世界のさまざまな食材や食文化を尊重しつつ、新たな食文化の創生を提案していくことを来場者に伝えようとしていた。
 また、日本の食文化には、季節の食材や伝統料理があることの意味を伝え、その食材を彩る器とともに、料理を盛り付ける技法と色合いなどを五感で伝える芸術的な価値観により構成されていることの素晴らしさを情報発信していた。
 展示による締めくくりとして、先端的な映像や音響なども効果的に組み込んで食料を生み出す自然の恵みとともに、生産、流通、調理などの食に関わる全ての人々および食べることのできる自分自身への感謝をこめて「いただきます」や「ごちそうさま」といった言葉を発することの大切さを伝えていた。食を核としたコミュニケーションこそが家族や友達の心を豊かにし、深い絆で人々が結ばれることを可能にする原点であることを説いていたと思う。

 

日本の食は日本への興味の入り口

 日本館レストランは「Feel the Japan Passion 理解を共感に変える、日本の食の体験」がテーマとなっており、本格的な日本食レストランとフードコートが設置されていた。美濃吉、CoCo壱番屋、サガミ、柿安、モスバーガー、人形町今半、京樽が参加して来場者に日本の食を提供していた。日本館レストランプロデューサーは、「レストランが日本館への興味の入口となること、日本自慢の食を体験し理解を進め、『共感』ひいては『感動』にまで深める場となること」と語っている。日本館レストランには、日本の食文化や“おもてなしのこころ”が凝集されており、開催国イタリアをはじめとして欧州や各国からの来館者に日本の食や食文化のすばらしさを体感してもらい日本への興味を持ってもらう入り口としての重要な役割を果たしたものと考える。

 

食の情報発信基地・・
 それは東京農業大学なり

 万博の開催地となったミラノは、ドゥオーモ、ガレリア・ヴテットリオ・エマヌエール2世、スカラ座、スフォルツェスコ城、サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会などの歴史が凝集された都市でもある。歴史的建築物やレオナルド・ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」を鑑賞した時間は、次世代への食を追及するための基本として「温故知新」を心に抱くことの重要性を再認識させられた。特に絵画「最後の晩餐」は、技法のみならず物事に対する観察力、人間を解剖学的に捉えた科学性を感じることができた。
 レオナルド・ダ・ヴィンチは、人や食材を生物としてしっかり捉えて絵画へと表現している。我々が食としていただくものはそのすべてが生物であり、その生物をどのようにいかすかが料理の神髄であると考える。食の素材と料理を身体(五感)から感じることこそが我が日本の伝承する食文化ではなかろうか・・・。
 食をテーマとしたミラノ万博は、われら東京農業大学とも深いかかわりあいのある博覧会であったと思う。ミラノ万博で発進した日本の食、農林水産技術・生命産業技術を引き続き「日本から・・」「この東京農業大学から・・・」発信することを心に強く抱き読者の皆様とその心を共有しペンを置くことにする。

 

 


 

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