東京農業大学

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教員コラム

里山 … 落ち葉 … 都市

2013年4月12日

地域環境科学部造園科学科 教授 鈴木 貢次郎

里山

立春を過ぎると、植物が休眠から目覚め、活動を始める最も騒がしい季節となる。その騒がしさを実感できる場として都市に近い里山がある。20年前であれば、里山は静かな場所、遊園地やディズニーランドは騒がしい場所と表現していた。しかし里山に入ってつぶさに生きものをみると、特に春の里山は騒がしい。遠くからでは一色にしかみえない「みどり」は、無数の生きものが支えあって生きている(写真1)。

 

春植物としてのカタクリ

春の里山をにぎわす植物として、春植物のカタクリ(Erythronium japonicum)があげられる(写真2)。春植物とは英訳すればspring ephemeral(春の短命な植物)であり、クヌギ、コナラ等の二次林の林床で、新春の一時だけ花を咲かせる。カタクリはかつてはお浸しや片栗粉などの食用としても利用されていたことはよく知られている。そのため、地域によっては、特に珍しいわけではなく、雑草のようにどこにでもみることができたという。

 

生活史研究

カタクリは、種子の発芽から開花まで、草本でありながら8年から10年を要するとのこと、私は先人の研究によるこのデータに魅了された。また自分の育った地域で起きた盗掘という衝撃がトラウマになり、このカタクリの生活史に興味をもった。特にカタクリ種子は、結実後、アリによって散布されるという特殊な生態をもつなど、調べるほどその魅惑な世界にのみ込まれていった。

 

リタ―の働き―カタクリの種子発芽とリタ―の関係

ところで、「落ち葉」は、都市の街路樹などでひどく嫌われている。専門的には「落ち枝」も含まれるので「落葉落枝」として「リター」と呼んでいる。これまでは微生物に分解され、それをまた植物が栄養分として利用するという教科書的な視点でしかリターをみていなかった。しかし、少し変わった視点で見ると、このリターには計り知れない役割があることを発見した。
里山の雑木林内のリター(落葉落枝)の下、つまり土壌の地表面とリターの間に温度計を設置し、1年間測定してみると、夏季は、気温が30℃になった時でもリター下は20〜25℃を維持すること、冬季は、気温が零下の時もリター下は0℃内外を維持していることがわかった。またリター下は多くの水分を保持していること、さらに落ち葉は太陽光を透過しないこと、すなわちリター下には光が照射されないことをみた(表1)。
一方、カタクリの種子は、夏季のほどよい暖温(約20℃)を経てから発芽するが、この時25℃を超えるような温度に長期間晒されると発芽力を失ってしまうこと、冬季は、5℃内外で発芽するが、零下では発芽力を失うこと、乾燥によって発芽力を失うこと、光が遮断された状態(暗状態)でもよく発芽することなどをみた(表1)。 つまりカタクリ種子はアリによってリター下に運ばれ、リターに発芽環境をつくってもらって発芽している。リターとその下には、人には見えない複雑なドラマが隠されていた。

 

これからの課題─みどりの教育─

今、私は、造園学を学んでいるが、その造園学の魅力やおもしろさ、社会的重要性は日増しに高まってきている。きっとどんな学問よりもおもしろいと自負している。造園学:人と自然を結び共生すること、私はカタクリをはじめとした植物の生活史研究を通して、人の生活に絡む諸問題も学んできた。
例えばリター(落葉落枝)、都市では邪魔扱いされるが、植物にとってはなくてはならいもの、特に人々の目を楽しませ、心を癒す働きのある春植物のカタクリの生育のために必要不可欠なものである。このリターがあってカタクリの育つ環境とは、いわゆる「里山」である。里山にはカタクリだけでなく他にも豊富な植物資源がある。これらの日本の里山の植物の豊かさは、欧米や中国等の他国からみれば羨ましい。
里山は新たな食料資源、観光資源としての多くの可能性をもっている。地域(地方)にとっては重要な資源であり、活性化にも一役買うことができる。事実、カタクリなどをつかった観光産業などが、秋田県の角館や福島県三春町等、全国各地で行われている。
ところが、現在、里山が経済的な理由で年々減少しているのは周知の通りである。それをいかに乗り越え、人の生活と里山との共生を図るかが、私たちの大きな課題となる。約20年前であれば都市と里山とは距離があった。交通の発達によってその距離感は縮まった。一頃の「里山を守ろう」というスローガンは転換期を迎えている。これまでは、みどり(里山)と街(町)を、どのように共生させるのかという発想であったが、これからは都市の中で里山をどう利用し、守るのかと考えた方が得策のように思う。
その一環として里山を環境教育のフィールドとして活用することを提案したい。一方、都市内ではリターの分解場所を随所につくることを提案したい。子供たちをはじめとして、多くの都市生活者に自然の力(例えば微生物による落葉落枝の分解等)を啓発して頂きたい(写真3)。
自然遺産の観光のために自然を壊してつくる高速道路、稀少(貴重)植物を守るためにつくられる大がかりな人工施設や鉄格子、各地里山などで、活動するモンスターペアレンツならぬ「モンスターボランティア」、子供たちに一切の植物・昆虫採取を禁じてしまう里山、震災対策を理由に次々とアスファルト舗装で土を無くし、さらに人工的構造物をつくる公園等、残念ながら大人の行為と世情は、ますます自然と人とを乖離させているとしか思えない。
いうまでもなく、これらの人と里山の共生を図るための「研究と教育」は、今後の大きな課題となる。現在その里山を活用した調査・研究と教育、保全活動を、自治体、教育機関、民間等と協力して実践している。

 

写真1 冬の雑木林
写真2 新春、里山をにぎわすカタクリの花
写真3 都心にある堆肥分解の展示(Washington, D.C., USA)

表1 雑木林のリター下の環境とカタクリの種子発芽との関係

 

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