東京農業大学

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教員コラム

大災害・TPP・食料不安 新しい日本農業への期待!

2012年1月20日

国際食料情報学部国際農業開発学科 教授 板垣 啓四郎

 

食料の安全保障と日本農業の活性化を考える Part 3

東京農業大学と毎日新聞社との共催によるシンポジウム「食料の安全保障と日本農業の活性化を考える Part 3:大災害・TPP・食料不安 新しい日本農業への期待!」が、昨年の12月12日、これまでと同様に丸ビルホールで開催された。300名を超える会場の座席はほとんど埋めつくされ、力のこもった現地報告と白熱したパネルディスカッション、それに会場からの熱心な質問が繰り広げられた。今回は東日本大震災の発生と大津波の被害、放射性物質の飛散による汚染、TPP(環太平洋経済連携協定)関係国との協議表明、また世界的な食料需給の不均衡に伴う価格の高止まりなど、日本農業を取り巻く外部条件が大きく変化し、新しい局面において日本農業がどうあるべきかという問題意識をもってシンポジウムが設定された。シンポジウムは、河野友宏氏(東京農業大学総合研究所所長)による総合司会のもとに、「主催者あいさつ」に続き3名の発表者による「現地報告」、5名のパネリストによる「パネルディスカッション」によって構成された。ここでは、シンポジウムで語られた内容のあらましを整理することにする。

 

主催者あいさつ

農業再生を全学で支援

大澤貫寿・東京農業大学学長

今年は、3月に発生した東日本大震災と大津波および福島第1原子力発電所の事故に伴う放射能汚染という未曽有の事態に直面した。また10月から11月にかけてはTPPへの参加表明をめぐり、国を二分するほどの激しい議論が展開された。こうした農業を取り巻く外部条件の大きな変化のなかで、今回3回目になるシンポジウムを開催する運びとなった。東京農業大学は、震災への対応として、福島県相馬市を対象地として農業の復興と再生のために現在全学を上げて支援しているところである。またTPPに関しては、担い手の高齢化や中山間地域に関わる諸問題など農業が多くの課題を抱えるなかで、将来における地域農業のあり方はどうあるべきか、また地域活性化のためにはどのような手立てをすべきかを、農業に教育と研究の基盤をおく本学にあって、今日のシンポジウムの内容をも踏まえながら、真剣に考えていこうとしているところである。シンポジウムを開催するにあたり、毎日新聞社ならびに農業関係諸機関のご支援に深く感謝したい。

 

日本の現状に世界が注目

岸井成格・毎日新聞社主筆

世界が現在日本に注目しているのは、長引く政治の混迷と今後の日本経済の立ち上がり方である。また最近では2つのことで日本に大きな期待が寄せられている。一つは震災直後の被災地で避難所にいる被災者の節度ある態度に対する礼讃の声であり、もう一つはCOP17(第17回気候変動枠組条約締約国会議)での日本に対する指導力の発揮である。被災者の人を思いやる気持ちは日本の長い歴史と文化によって育まれた民族性に由来し、世界の注目を集めている。また二酸化炭素の排出による地球温暖化は今後ますます深刻になり農業にも影響を及ぼしていくであろうが、植林活動などで環境を守る努力の積み重ねには日本が一役買わなければならない。毎日新聞社が東京農業大学と協力し合いながら進めている全国農業コンクールおよび毎日農業記録賞の事業、そして本日のシンポジウムの開催も、日本農業の活性化につながる一助となることを期待したい。

 

第1部:現地報告

険しい復興への道のり

<第1報告>福島県川内村長、遠藤雄幸氏「川内村における震災後の状況と復興ビジョン及び農業・農村再生の方向」

川内村は、爆発事故があった福島第1原子力発電所から30キロ圏内にあり、人口3000人余りの農業と林業を基幹産業とした農村である。阿武隈高地の中部に位置する村の平均標高は456mで村の総面積はおよそ2万haであり、そのうちの86%は林野である。
村の東半分は警戒区域であり、西半分は緊急時避難計画地域となっていて村が分断されている。これに伴い居住地への立ち入りの程度にはかなり大きな違いがあり、住民の意識はきわめて複雑である。隣接する富岡町の住民と一緒に3月16日郡山市へ避難し、翌日合同災害対策本部が設置された。村の東部とホットスポットを除いて放射能の空間線量率は低いが、震災による影響はかなり深刻である。3月には住民が村へ帰還できるように準備を進めているが、住民の半分しか帰村せず、とりわけ子育て世代を中心に帰村しないのではないかと危惧する。
村では、地域のコミュニティが崩壊、農地も荒廃して高齢就農者の意欲が低下している。生活環境も悪化して村の経済全体が低迷している。農業の現状をいえば、水稲の作付け制限、露地野菜の風評被害、葉タバコの作付け断念、和牛の殺処分、酪農・養鶏の廃業に加え、森林の多面的機能が大きく損なわれている。村へ帰還後は、除染を継続実施して安全・安心な居住空間を確保し、行政、医療、福祉、教育など地域の生活基盤を復旧させる。また農業を再開し、製造業や省エネ関連企業などを誘致して失業者のための雇用を確保し経済活動を復興させることにしているが、決して容易なことではない。今後の支援で、川内村を忘れないでほしい。

 

環境再生モデルを発信

<第2報告>佐渡市副市長、甲斐元也氏「佐渡 世界農業遺産物語」

佐渡は、2011年6月に後世に残すべき生物多様性を保全している地域として国連食糧農業機関(FAO)から世界農業遺産に認定・登録された。周知のように佐渡は絶滅した朱鷺の繁殖を試みて、これまでに78羽が放鳥されている。佐渡は朱鷺を野生復帰させる試みとして、朱鷺が餌場とする小さな生き物が棲息する水田を保全するために生物多様性保全型農法(生き物を育む農法)を確立した。
その農法を普及・定着するために、農家、子供たち、都市住民が一体となった「生きもの調査」を行い、生物多様性の保全効果や朱鷺の棲息環境を科学的に把握するための評価システムを構築、また「朱鷺と暮らす郷づくり認証制度」を設立した。生きものを育む水田で作られた米を「朱鷺と暮らす郷米」として認証米としブランド化した結果、大きな経済効果が生まれたという。その経済効果は認証米の作付面積が急速に広がったことにとどまらず、ブランド柿である「おけさ柿」など他の農産物にも波及し、また佐渡のブランドイメージの向上によりさまざまな経済交流活動に盛んになってきた。
生物多様性保全型農法の普及を通じて、農業に関連する設備の改修や施設の省エネルギー化で温室効果ガスの排出削減にも取り組んでいる。認証米の売り上げの一部は「朱鷺保護募金」に寄付され、水田の環境整備に活用されているという。この新しい農業システムを、里山・里海が創る美しい景観、豊かで深い歴史と文化の遺産など佐渡がもつ多様な地域資源と結びつけ、佐渡を環境再生モデルとして世界に発信したい。

 

営農に4つの信条

<第3報告>福井県大野市「ゆいファーム」、帰山安夫・幸子ご夫妻「地域農業と6次産業への取り組み〜夫婦二人三脚で夢を追う〜」

(2011年7月の第60回全国農業コンクール毎日農業大賞受賞者)
安夫氏=大野市は福井市から東へ35キロほどの中山間にある農業の適地である。現在自作地は5ha、借地は66haであり、延べ作付面積は91haに及んでいる。このほかにも高齢農業者を中心とした作業の受託を32ha行っている。
最近では経営自体の全面受託も増えてきた。主作は稲であるが、これに六条大麦、大豆、そば、サトイモを裏作として栽培する典型的な土地利用型の農業を営んでいる。当初20haの耕作を目指してきたが、平成9年にこの目標を達成した。その後夫婦で33haまで広げてきたがこれが限界。平成14年には常勤の3名を雇いその後長男も就農して、現在安夫氏を含む5人体制で農業を展開している。大型機械を導入し無人ヘリを駆使しながら徹底した省力化に努めている。
営農は4つの信条に基づいて行っている。①安全・安心な食べ物づくり、②働くことを惜しまない、③創意工夫と自主性の発揮、④地域との共存「結い」の心、である。消費者ニーズに応え、農産物の付加価値を高め、地域に愛される農業を目指していると述べた。
幸子氏=農産物の加工と販売について述べた。男女共同参画は女性が変わらなければ浸透しないことに思いが至り、自分を奮い立たせてきた。青大豆を入手しそれで豆腐をつくることを試作してみたが、最初は失敗の連続であった。そこで自家の原料大豆を豆腐屋さんに委託加工したもらうことから始めた。平成18年に原料生産から加工、販売までをすべて自分で一貫して行う体制ができ「農家のお豆腐屋さん」をオープンした。
安心できるおいしい商品づくりを目指し、お客様の声を聞きお客様に寄り添った店舗運営を心掛け、店舗を改装し、お客様の信頼を得てきた。やがて商品を売ることは自分の人間性を買っていただいていることに気付いた。これからは人と人のつながりを大切にし、地域に貢献できる経営の維持発展を目指していきたい。そして「ゆいファーム」を地域のブランドにすべく、これからはますます情報を発信していきたい。

 

第2部:パネルディスカッション

コーディネーター 中村靖彦氏(東京農業大学客員教授)
パネリスト 武本俊彦氏(農林水産省農林水産政策研究所長)、柴田明夫氏(㈱資源・食糧問題研究所代表)、吉本哲郎氏(地元学ネットワーク主宰)、アン・マクドナルド氏(上智大学大学院教授)、板垣啓四郎(東京農業大学教授)

 

冒頭、進行役の中村氏から今回のパネルディスカッションの意義が話された。今年は東日本大震災による大津波と原発事故による放射性物質の飛散が食料供給に大きな影響を与え、農業・農村の見直しを迫られることになった。またTPPに参加するかどうかも「交渉参加に向けて関係国との協議に入る」との表明があったが、本格的な話し合いはこれからである。私たちはいまこれからの食料・農業問題を考える出発点に立っていると述べられた。以下、パネルディスカッションで話された内容をテーマごとに分けてその要点を記述する。

 

大震災・原発事故と食料・農業

この災害を契機として食料はだれがどこでどうやって作られているのかという原点に立ち返って農業を国民全体の問題として捉えるべき(マクドナルド氏)、今回の震災で気づいたのはトップダウンとボトムアップのバランスが悪いこと、その要因に震災復興に対する権限の所在が不明、財源が不足し、地元の自治力が弱いことが痛感させられた(吉本氏)、とりわけ福島第1原発事故に関する情報の開示が遅くまた不正確であり、食料の安全確保に対する政府の信頼を損ねてしまった(武本氏)、国民が震災発生後の食料不足とその重要性に気づいた。エネルギーなどの供給制約のもとでまずは農業・農村を復興して安定した社会を目指すべき(柴田氏)、災害に対する情報が海外でも適切かつ迅速にしかも正確な内容が発信されていた。私たちは国内だけでなく海外が発信する情報にも目を向けるべき(板垣)、などの意見が最初に自己紹介を兼ねて出された。続いて被災地における農村コミュニティの再生のためには、自治体ベースの単独ではなく地域を構成する農山漁村が一体となって統合化し連携していくべきであり、また革新的な発想や試みを外部から取り入れるべき(マクドナルド氏)、被災地の土地利用についてはコミュニティ・ベースで考えていくべき(武本氏)、被災地では農地の移転が先にありきという議論ではなく既存の農村コミュニティのあり方がどうなのかを理解することが重要(柴田氏)、水俣の経験から風評被害は容易に解決できない。実害対策はしなければならないが、「あきらめる」「覚悟する」「本物をつくる」ことが重要。人のうわさは簡単に防げず時間がかかることを覚悟しないといけない。農村の活性化を図るためには「人・自然・経済」を元気にしていかなければならないが、特に経済には「金の経済」「共同の経済」「自給自足の経済」があり、このうち共同と自給自足の経済にはもっと注力していくべき(吉本氏)という意見が出された。

 

TPPをどのように解釈するか

武本氏からTPPに対する行政側としてのこれまで動きについて話された。APECでの首相発言にはさまざまな解釈があるが、情報の収集というレベルではなく、もう少し突っ込んだ話ができるようになった。アメリカとの事前協議はこれから始まるが、アメリカでは国内のパブリックコメントを受け付けているところであり、わが国も政府が一体となって体制整備を図っていかなければならないところにある。その体制をどのようにつくり、そこにどのようなミッション(使命)とマンデート(権限)を与えるかはこれから詰めていくところである。
この武本氏の発言を受けて他のパネリストからさまざまな意見が出された。TPPはかぎりなく参加の方向へ向かっているように思える。TPPに参加すると農業が壊滅するようにいわれているが、TPPに参加すると否とを問わず、世界的な資源の供給制約を考えれば、農地、水、人材、コミュニティなど農村にある地域資源を保全し、水田のフル活用など農業生産力を強化していく方向が重要である(柴田氏)。TPPによって得する人、損する人がはっきりみえてこない。TPPとは関係ない世界で農村を支えがんばっている方々がいることを忘れないでほしい(吉本氏)。日本の外国との交渉はあまりにもナイーブすぎる。アメリカ、オーストラリアはタフ・ネゴティエーターであり、したたかな交渉戦略をもっている。日本も腹を据え戦略をもって交渉に臨むべきである(マクドナルド氏)。TPP参加の交渉に臨む日本の姿勢はTPPに話を限定するのではなく、TPPに参加表明していない中国や韓国の動きにも目配りしていかなければならない。成長するアジア市場をめぐるアメリカと中国のイニシアティブ争いのなかで日本はどうあるべきかを考えていかなければならない。また食品の安全性表示の問題など量だけでなく質についてもTPP参加を協議する検討事項の中に組み入れるべきである。かりに日本がTPPに参加すれば国内でどのような問題が発生するのかを、人・地域・農畜産物の種類の組み合わせのなかで細かくかつ慎重に検討していくべきである(板垣)。
武本氏は今回のアメリカとの間で決定した輸入牛肉を30ヵ月齢まで規制緩和するとした交渉の仕方に多少なりとも疑問を呈しながら、TPPについて協議するとき最初から米だけは例外扱いにしてほしい、そしてその代償について聞きたいという交渉の姿勢では陳情以外の何ものでもない。TPPの原則はすべての物品・サービスについての規制や関税の撤廃であるからその原則に沿って交渉すべきである。アメリカが原則で協議に迫るときを想定して日本としても事前に協議する内容をつめ、本格的な交渉の局面に臨む準備をしておくべきと述べた。日本がおかれているマクロ経済の状況は、深刻な不況と失業にあえぐなかで円高も手伝って容易に回復基調にはもどりにくい。復興増税やこれから論議される消費税の増税が決まれば内需が縮小し、国民の可処分所得も小さくなって一定の食生活を維持するために安価な輸入品に向かうことは避けられない。一方でこれまで巨額の予算を使って農業の振興を図ってきたが、一向に成果が上がってこない。財源も限られているなかで納税者の農業に対する目は今後ますます厳しくなるであろう(板垣)。

 

日本農業の活性化方向

日本の農業をどのように活性化するかについて、最初に吉本氏から話題の提供があった。水俣はかつて水俣というだけで仕事がもらえず結婚もできずまた農産物も売れなかった。その経験から「人様は変えられないから自分が変わる。水俣も世間は変えられないから水俣が変わる」ことを悟り、ないものねだりでなく水俣のなかにあるものを探し、それを活かして「村丸ごと生活博物館」を設け、水俣自体が人も自然も経済も元気になることをめざしてきた。沖縄県糸満市でも「生活感幸村」があり自治意識が高い。島根県浜田市では、若者が中心になって野菜の契約栽培を行い全国に販売して村が活性化している事例が紹介された。
続いてマクドナルド氏は、全国の農村を取材してきた経験から、マニュアルでない自らの創意工夫でやってきた農業者はクリエーティブでイノベーティブな農業を展開しており、非常に活気がある。農業のやり方を自然にやさしい生物多様性保全型農法に変え、自ら農産物の商品化に取り組み、マーケティングにも力を入れている。そうした農業を営む農場には若い人も参入してきており、これからの農業はこういうタイプの人たちで担われていくのではと強く感じていると述べた。柴田氏は石川県にアグリファンドという40ほどの経営体が集う組織があり、そこで情報交換したり悩みごとを打ち明けたりして、起業化、6次産業化を目指すなど先端的な取り組みを行っている。行政も若者を中核とした新しい経営体を支援するソフトを考えてもらいたいと述べた。板垣は最近20年余りの間にみられた農業所得の半減は農業交易条件(農産物販売価格/農業資材価格)の指数が農業者側へ不利に働いて農業の所得形成力が低下していることが農業の活力を失わせているとし、価格を生産者と消費者がともに相談しながらリーズナブルな価格を決めるプラットフォームを形成することが農業活性化には重要と述べた。
武本氏は用意した2枚の説明ペーパー(「日本の経済と食料・農業の展開」「日本の食料と農山漁村の再生」)により、日本農業の活性化方向について論じた。1990年代後半以降のデフレに伴い勤労者の所得水準は下落してきた。これは原油価格の上昇に伴い変動費が上昇して企業の利益率が低下、営業利益率を維持するために賃金を固定費から変動費へ切り替えて労働力を非正規労働に代えたからである。所得の低下は国産農産物を購入するのに厳しい状況となった。一方、失われた20年間にアジア諸国は著しい経済発展を遂げてきた。日本の農業には、農産物価格と農業所得の低下、農地面積の減少と耕作放棄地の増加という負のスパイラルが生じ、また国内市場も縮小して農業は魅力がないものになってしまった。これからは内需と外需を一体として市場を考えていかなければならない。今後農業再生の戦略としては、マーケティングを含めて農山漁村の6次産業化を図ること、安全・安心で高品質の農産物を環境にやさしい農法で栽培しそれを「売り」にすること、輸入農産物に対する関税引下げを農業者に対しては所得の直接支払いでカバーし消費者に利益をもたらすこと、と述べた。これに対して板垣は、輸出は円高の推移いかんに大きく左右されること、食料安保のセーフティネットの一手段として海外農業投資を活発にし、わが国の食料の安定確保と途上国の開発ニーズの双方に応えることが大切とコメントした。

 

 

時間がおしていたことから、会場からの質問やコメントはきわめて限られたものになった。「TPPに関して日本の交渉の仕掛けをどう考えているのか」いう質問や「新規就農者を育てているNPOなど市民参加活動への施策や資金の支援をどのように考えているのか」といったような質問が出された。
パネルディスカッションの最後に、コーディネーターの中村氏から今回を含め過去3回のシンポジウムを踏まえた総括がなされた。過去3回を通じ「大胆な発想、慎重な分析」をモットーとして議論を進めてきた。農地の所有から利用へのシフト、農業担い手を支援するための環境整備、遅々として進まない規模の拡大、農業者戸別所得補償制度のあり方など微妙な内容を含むテーマに対して、これまでの議論にとらわれない言論と発想が重要という思いでシンポジウムを進行し、またこのシンポジウムが世論に刺激を与え議論を呼び起こすことに期待をかけてきた。今回はとくに未曾有の大災害が発生しTPPの議論が活発化するなかで農村コミュニティの再生と外圧に負けない農業のあり方はどうあるべきか、世界的な食料不安が忍び寄るなかでわが国の食料安全保障を今後どのように考えていくべきかというテーマを議論の中心に据えた。東京農業大学は今年創立120周年という節目にあたる。このシンポジウムがこれまで東京農業大学が行ってきた発言や行動を見つめ直し、新しい展開につながるスタートラインになることを期待したいと述べて総括とした。

 

クロージング・リマークス

農業、地域振興の担い手を

三輪睿太郎・東京農業大学教授

日本の農業には、政策面で農業者への所得補償が制度化されたこと、麦・大豆・飼料作物などが増産してきたこと、大規模な水田経営が生まれてきたこと、秋まきパン用小麦の画期的な品種創出など技術が開発されていることなどいくつかのよい兆候が生まれてきており、理学・工学の分野でも生命科学・生物科学に参入し、新しい農業技術革新のシーズが広がってきている。
大災害は確かに痛ましかったが、その中で示された節度ある国民性という社会の良識が見直され、日本の将来に明るい希望がみられた。これからの大きな課題の一つは、食料生産を支える農業の担い手および地域振興の担い手に若い人たちを農村へ呼び戻すことであり、そのために農業や教育などさまざまな側面から協力し合っていかなければならない。その任務の一端に東京農業大学の果たす大きな使命がある。

 

参加者アンケート

シンポジウムの終了後、参加者にアンケートを配布し回答していただいた。アンケートの回収数は169(男性77%、女性23%)で、回答者の年齢層は50歳台以上が全体の73%と大半を占めたが、20歳台が9%、30歳台が8%、40歳台が10%と、若い年齢層にも回答していただいた。職種別には、会社員(28%)、法人・団体職員(12%)および学生・院生(9%)の回答が目立った。シンポジウム全体の構成、現地報告およびパネルディスカッションについて、「たいへんよかった」「よかった」と回答した人の合計の割合は、それぞれ80%、91%、78%であり、回答者から高い評価をいただいた。また自由回答欄には種々の貴重なご意見を数多くお寄せいただいた。それらの意見や提案は、今後のシンポジウムの企画に活かしていきたい。

 

 

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