東京農業大学

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教員コラム

総合プランナーとしての人材を

2011年10月13日

国際食料情報学部食料環境経済学科 教授 立岩 寿一

地域再生・活性化の担い手育成教育

「地域再生・活性化の担い手教育」は、国際食料情報学部食料環境経済学科を中心に、長野県長和町を舞台として推進してきた。地元住民、関連団体、行政の支援を受け、実習回数は延べ24回、参加学生は延べ約1,200名に及ぶ。再生に取り組んだ荒廃農地などの面積は約6ヘクタールに達し、数キロの獣害防止柵も設置した。さらに伝統文化を支える原料栽培、野菜や米作り、伝統食作り、山村の祭りにも参加した。この多種多様な実習で、学生たちは、現状を把握し分析し、課題・問題と解決方法を考え、それを実行し、さらに新たな課題・問題を探り、解決策を模索した。それはPDCAサイクルに則った教育だった。

 

「実学主義」の精神と理念

プログラムの教育目的は、第一に社会的課題解決手法の教育をしていくこと、第二に地域との協働による教育をしていくこと、第三に学生たちが自己実現の喜びを知る「自己実現の教育」をしていくこと、また第四に学生が主導的にかかわる学生主導型の教育をしていくこと、これらによって第五に地域再生・活性化の人材を育てていくこと、という特徴を持つ。それは「人物を畑に還す」「実学主義」という本学の建学の精神、教育の理念を生かす教育でもある。

学生たちは農地での実習や住民との交流を体験する中で、社会の一員としての役割や責任を自覚し、地域社会との連携をとりながら課題へ対応する能力を身につけることができる。そうした教育の結果として、地域再生・活性化の総合プランナーとしての人材養成を目的とした。つまり地域社会を分析し地域を活性化する企画能力を持ち、また地域活性化を実際に行っていく能力を持つ人、環境保護や都市と農村との交流が企画でき実施できる能力のある人材、グリーンツーリズムインストラクション能力のある人、世代を超えたコミュニケーション能力をもつ人、食資源を活用できる能力をもっている人材である。

 

実習ノートに再生プラン

学生たちは実習では、必ず「実習ノート」を持ち歩いて、毎回毎日の出来事や感想、驚いたこと、感激したことを記入した。それらを確認、整理していくという過程の中で学生たちは実際に五つの実習を行ってきた。
遊休荒廃農地の再生活用実習、伝統文化・歴史資源の活用実習、食文化活用実習、自然資源保護・活用実習、地域再生・活性化プランニング実習の五つである。

このような実習を積み重ねた最後に、学生たちは毎回宿舎に帰って夕食後約2時間から2時間半、実習ノートをもとに地域湖再生・活性化の原案を作っていく。そして実習地図に記入しそれぞれの意見を確認し、議論し最終的にはマスター地図(長和町全図)に記入していく。これが地域再生プランニング実習だ。

学生たちは、「こうしたら面白いかな」、「ああしたら面白いかな」、「こうしたら役に立てるかな」ということを記入していく。それぞれの班ごとに分かれて自分たちが作ったプランを発表し、他の人たちとの意見の違いや発想の違いを確認して、次のステップに向かっていくという教育を展開してきた。自分たちでいろいろなプランを練ってみる、実際にそれを行ってみる、地域住民の方々といろいろなお話しをしてみる、最後の自分たちが社会的責任を負っていること、自分たちが担当していること、自分たちがプログラムの一つとしてここで実習を行っていることを社会にアピールするため、圃場には農大の旗を立てて続けてきた。学生たちは、自分たちのやっていることの社会的責任を果たすという明示の旗だ。これは自己実現教育の一環でもあった。

参加学生のプログラム理解と満足度という視点からアンケート調査を行った。「山村再生プロジェクトの目的は理解できましたか」という質問、あるいは「参加した意義はありましたか」、「満足しましたか」という質問に対する学生の評価は、肯定的評価が90%以上という成果を確保することができた。地域再生・活性化マスター地図には非常にたくさんの強い関心と新鮮な提案が形となって記され、まとめられている。

 

今後も続く「山村再生プロジェクト」

長和町を舞台としたこの教育は文科省の補助事業としては終了したが、今後も、学部、学科の取り組みとしてまた地域からの補助も受けて「山村再生プロジェクト」として続けられる。圃場での野菜やお米の栽培、収穫した農産物による食文化学習、炭焼きや森林管理、伝統文化学習、地域の方々との交流を継続する意義は大きい。これまでの多くの方々のご協力、ご支援に心より感謝するとともに、今後もさらなるご支援とご指導のほどをお願いしたい。


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