東京農業大学

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教員コラム

日本の農業を変えよう!

2010年11月17日

国際食料情報学部国際農業開発学科 教授 板垣 啓四郎

食料自給率シンポジウム Part 2

東京農業大学と毎日新聞社の共催によるシンポジウム「食料の安全保障と日本農業の活性化を考える」Part2が12月8日、東京・丸の内の丸ビル7階ホールで開催される。昨年12月、同じテーマで行われたシンポジウムは350人を超える入場者の熱気にあふれ、食料自給率に対する関心の深さを浮き彫りにした。今回は新たに「日本の農業を変えよう!」という副題を加えた。わが国が抱える食料・農業問題を様々な角度から論じるだけにとどめず、問題を解決するにあたっての具体的なアクションまで踏み込んで論じようとする願いをそこに込めた。

 

シンポジウムの背景と目的

これまで食料自給率向上に向けた種々の政策が立案され実施されてきたにもかかわらず、食料自給率は40%の水準でしかなく、依然として低迷を続けている。この理由として、食生活が大きく変化している一方で、農地の減少と耕作放棄地の増加、農業担い手の減少と高齢化の進展などいわゆる資源の低利用と脆弱化が深化して、食料の供給が需要の変化に追いつかないこと、これを加速している背景として、農産物販売価格の低下と生産・流通に関わるコストの増加に起因して農業所得が著しく減少していることなどが挙げられる。結果として、食料供給力は大きく低下してきている。他方、海外からは安価で良質な食料が輸入され続けている。これからもわが国の食料供給は、国内生産と輸入を組み合わせて、消費者需要の多様なニーズに応じていかなければならない。  

しかしながら、世界における食料需給の見通しに目を転じてみれば、今後、人口の増加、BRICsと呼ばれる新興国を中心とした1人当たり所得の向上、バイオエネルギーの使用増大を要因とした需要の増加傾向に、農地や水などの資源制約と地球温暖化など環境の変化に伴い供給が追いつかない事態が予想されている。不透明で不安定な世界の需給見通しを前提にすれば、輸入への依存を深化させる方向ではなく、ある程度食料自給率を高め、そのための自給力を保持していくことが国家の安全保障上きわめて重要といえよう。また食料の安定確保への努力は、食料・農産物の供給地である農村を活性化させることにつながると同時に、自然資源を有効に利活用することによって成り立つ農業が、その活動を通じて環境を維持・保全する役割も果たすことになろう。 本シンポジウムは、以上のことを念頭におきつつ、世界の食料需給を取り巻くグローバルな視点を踏まえ、またわが国の食と農の現状を見つめ直すなかで、食生活の望ましいあり方、農業生産の新しい展開機軸、適切な地域活性化の方向、食料・農業・農村の安定と発展に資する政策ヴィジョンの構築など多面的に議論を展開することを通じて、わが国の食料自給率向上へ向けたムーブメントを引き起こすことを目的に掲げている。

本シンポジウムで繰り広げられる活発な議論が、文字通り日本の農業を変える一つの重要な転換点となることを期待したい。

 

戸別所得補償制度も争点に

今年のコメの作況は、平年作にもかかわらず、消費者のコメ離れで30万トンの余剰を抱えることが確実な情勢となった。昨年度から引き継いだ在庫の累積も手伝って市場実勢に基づく米価は下落の傾向にあり、コメ戸別所得補償モデル対策で農家をどこまで救済できるかが大きな焦点となっている。

現行の戸別所得補償制度は主食用のコメだけでなく、水田転作による飼料用米、米粉などの多用途米や麦、大豆にも適用されているが、来年度からは、これに加えて、畑作での麦、大豆、甜菜、でん粉用じゃがいも、そば、菜種にも拡大されることになっている。戸別所得補償の内容は、主食用のコメに対しては所得補償交付金と米価変動補てん交付金、水田活用作物と畑作物に対しては対象作物ごとの所得補償交付金の給付となっている。これとは別に、耕作放棄地などに麦、大豆、そば、菜種を作付けする場合や集落営農が法人化する場合などには、様々な形での加算支払いがなされる(農林水産省、2010)。

こうした与党政権の目玉政策の一つである戸別所得補償制度が、食料自給率を50%まで引き上げようとする政策目標の達成に対してどのようにまたどこまで有効であるのか、農業の多面的機能など継承すべき「農の価値」の実現にこの制度がどのように関わっていくのか、その一方で農産物価格の下落傾向が続くなかで交付金や価格補てんを給付するための財源は十分に確保される保証があるのか、現場の農業経営者はこの制度をどのように評価しているのか。こうした問題が、シンポジウムの争点の一つになることはまず間違いない。

さらには、農業の「6次産業化」を起点とする様々な事業の展開や都市と農村の共生と対流が、農村の活性化に向けてどのように関わり合い、農村に内在する資源の有効活用を図ることにつながるのかという視点の解題も、またおおいに期待されるところである。

 

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