東京農業大学

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教員コラム

アンデスとトウモロコシトルティーヤとチチャ

2010年11月17日

トウモロコシは米や小麦と同様、イネ科の植物ですが、不思議なことに祖先とする野生種が見つかっていません。それ故、野生種は既に絶滅してしまったのか、あるいは、複数の野生種の交配によるものではないかと推定されています。しかし、紀元前5000年ごろにはアメリカ大陸で栽培されていた様子から、恐らくアンデス山麓か中米メキシコ周辺が起源と考えられています。その後、15〜17世紀にヨーロッパやアジア、アフリカに伝わり、日本には16世紀後半にポルトガル人から伝えられたとのこと。現在では、品種交配により用途別に様々な品種が世界中で開発、栽培され、また、遺伝子組み換え品種の栽培も拡大しています。世界の年間生産量は米や小麦より多く約8億トン、食用には、その20〜30%が利用され、多くは家畜の飼料用です。最近は、バイオエタノールやバイオプラスチック原料としても注目されていますが、食飼料と競合することから問題点も指摘されています。

トウモロコシの成分は、品種により異なりますが、概ねデンプンが約70%、タンパク質9%、脂質約5%、その他、水分、灰分、ビタミンなどです。食用としてコンスターチやコーンオイルなどの加工品として利用され、また、製粉してパンを焼いたり、粒のまま煮たり、粥状にしたりして食されています。メキシコのトルティーヤ(うす焼きパン)、米国のコーンブレッドなどがよく知られています。なお、日本人にも馴染みのポップコーンは、小粒で種皮の固い爆裂種(ポップ種)という品種を使います。この粒を油やバターをひいたフライパンで数分間炒り続けると、粒の中の水分が水蒸気となって膨張し、圧力が上昇していきます。すると、粒はその圧力に耐え切れず一気に固い種皮が弾けてポップコーンになるというわけです。種皮の柔らかい品種(スイートコーン)では、あの形と食感は無理ということです。

ついでにトウモロコシを使った代表的な酒、チチャとバーボンウイスキーの話を少し。チチャは、南米アンデス地方、特にペルーやボリビアでインカ時代から飲まれている酒です。古くはトウモロコシの粒を噛んで甕(壺)に吐き出し発酵させたもので、古代の日本酒と同様、いわゆる口噛み酒でした。近年では、粒を水に浸け発芽させ、もやし状にした後、粉にして煮出して発酵させて作られています。一般に自家醸造が多く、低アルコールで日持ちしない、いわば"どぶろくビール"のようなものです。バーボンウイスキーの名称は、米国のケンタッキー州バーボン群で製造が始まったことに由来しています。製造原料にトウモロコシを51%以上使用することなど幾つかの条件が定められています。製造法等により4種類に分類されますが、詳しい話はいずれまた。

トウモロコシは種子(実)以外も利用価値が高く、ひげには利尿作用があり漢方薬として利用されています。ちなみに、ひげはメス花の花柱ですから、ひげの本数と粒数は大体同じとのことです。実を取った残りの軸は、建材原料やキシリトール、合成樹脂の原料としても利用可能です。なお、キシリトールは、キシランという多糖類を分解してキシロースを得た後、そのキシロースを水素と反応させて作ることができます。軸には、キシリトールの原料となるキシランが多量に含まれているのです。キシランを分解する酵素(キシラナーゼ)の研究が私の学生・院生時代のテーマでした。話題も思い出もいっぱいです。デンプンはこれにて終わり。次号新たな物質につづく。


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