東京農業大学

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教員コラム

産業・文化の再編、活性化を

2010年10月15日

国際食料情報学部国際バイオビジネス学科 教授 門間 敏幸

「農山村再生フォーラム」報告

わが国の農山村は、地域経済が衰退するとともに高齢化が急速に進行して、存続の危機に瀕している。この窮状に歯止めをかけ、新たな活性化の方途を探ることを目的として、さる7月10日、東京農業大学百周年記念講堂で、東京農業大学、実践総合農学会、山村再生支援センター共催で「農山村再生フォーラム」が開催された。

 

16市町村長らが熱心に議論

東京農業大学は、全国16の市町村(関連記事、図1参照)と包括連携協定を締結しており、これら市町村では大学と協力して地域産業ならびに生活・文化の再生を目指している。

フォーラムには、この16市町村長らのトップリーダー、関係者、そして地域の活性化を研究面で支援している東京農業大学の教員と学生、農村と都市との連携を目指すNPO組織や生活者組織といった関係者約700人が参加して熱心な議論を展開した。

その結果、世界に誇れる日本の物づくりの技術と共生・連携の精神で、すべての農山村共通の産業である農林水産業が核となった産業・文化の再編を行うべきだとの見解が強く打ち出された。さらに、経済と生活、文化が統合した新しい農山村の創造に向けて、農山村と都市、生産者と消費者、農林水産業と商工業等が相互に連携した新しい行動体の組織化を目指すことで大方の意見が一致した。

 

「北川ワールド」に感動

基調講演では前三重県知事・北川正恭早稲田大学教授が「地域活性化の理念と戦略─地域再生行動体ネットワークの構築に向けて─」というテーマで講演を行った。講演の中で北川教授は、次のような重要な提言を行い、満場の参加者の共感を獲得した。

まず第1に、私たちは、現在、明治維新を上回る革命を必要とする時代に生きており、現状維持の視点から出発する事実前提から、未来を見据える価値前提へと発想を転換することの重要性を指摘した。特に明治維新政府が作り上げた中央集権国家体制からの脱却を基本に据えて地域の発展を考えることの大切さと、この現代の革命を成功させるためには科学技術が社会を先導する仕組みの構築が重要であることを強調した。

第2は気象学者ローレンツによる複雑系理論のたとえ話として有名な「北京で一羽の蝶々が羽ばたくと、ニューヨークでハリケーンが生じる」という北京の蝶々を例として、農山村再生フォーラムの取り組みは、現在は一羽の蝶々のような小さな羽ばたきの存在であるが、この動きが多くの市町村、都会の人々の共感を獲得して共鳴の和を拡大すれば、だれも予期しないような日本国の創り直しの大きなエネルギーになると提言した。

北川教授の講演は、市町村のトップリーダーや関係者の方々にとっては時に厳しく、時に優しく、フロアーからは共感の拍手、笑いが起こり、多くの聴衆が話にうなずく姿がみられた。

 

市町村の多様な挑戦

北川教授の講演に続き、13の市町村(北海道網走市、岩手県久慈市、宮城県角田市、福島県鮫川村、神奈川県厚木市、山梨県小菅村、長野県の白馬村と木曽町、新潟県の上越市と妙高市、愛媛県西条市、鹿児島県瀬戸内町、沖縄県宮古島市)のトップリーダーの方々から、東京農大と連携した取り組み、また地域活性化のための挑戦内容が紹介された。1市町村5分という限られた時間的制約の中で実に要領良く市町村の特徴、特産品開発の取り組み、東京農大との連携の意義などが報告された。

以上の13市町村からの話題提供を受けて、徹底討論「地域活性化と産官学連携」が、門間敏幸・東京農業大学教授の司会のもと、北川正恭・早稲田大学教授、髙野克己・東京農業大学副学長、宮林茂幸・山村再生支援センター代表をアドバイザーとして、13の市町村のトップリーダーが参加して実施された。この討論では、16の市町村の横の連携を確立して行動体としてのネットワークの創造に向けた活動理念・戦略の共有、食や地域資源活用に関わるネットワークのあり方が論議された。国家の補助金の大幅削減のなかで地産ブランドの構築、地域木材資源の活用、さらには産地と消費地、生産者と消費者をつなぐキーマンの存在、技術開発の重要性と大学の役割などについて活発な論議が行われた。

最後に、長野県長和町、新潟県佐渡市、静岡県富士宮市のトップリーダーから、現在挑戦している先駆的な取り組みが紹介された。長和町の羽田町長からは、高齢化の進行により耕作放棄地が増加して鳥獣害が深刻化している現状を打破するため、東京農大の学生との連携で様々な鳥獣害防止対策を実践するとともに、学生と一体となった多様な地域活性化の取り組みが紹介された。佐渡市の髙野市長からは、佐渡市のトキの野生復帰のための活動が生物多様性の取り組みにつながり、さらにトキの生息環境を創造する生態系農業を生み出し、それがトキ認証米のブランド形成に結びついたことが報告された。富士宮市の小室市長からは、富士宮市における食を中心とした町づくり、いわゆるフードバレー構想が東京農大との連携で多様な取り組みの実践へと発展したという実態が提起された。

 

地域食材の素晴らしさを堪能

フォーラム終了後の交流会は、「地域食材の素晴らしさを堪能する」というテーマで実施され、16市町村を代表する食材が提供された。

エミュー(網走市)や日本短角種の牛肉(久慈市)、とん漬け(厚木市)、雪えび(妙高市)、養殖マグロの刺身(瀬戸内町)、トキ認証米のサザエご飯(佐渡市)、梅ぼし(角田市)、スンキの漬け物(木曽町)、しゃくし菜漬け(長和町)、完熟マンゴー(宮古島市)、越の丸ナス(上越市)や絹川ナス(西条市)、ダッタンそば(長和町)、焼きそば(富士宮市)、達者の豆腐(鮫川村)、紫米五平餅(白馬村)などで、地域の水が育んだ銘酒も出品され、地域の自慢話の輪が広がった。

 

地域物産の素晴らしさも発信

農山村再生フォーラムと併せて東京農大の「食と農の博物館」では、7月10日(土)〜11日(日)にかけてフォーラム参加12市町村による「地域物産展」が開催された。それぞれ自慢の食品、特産品を持ち寄り、博物館内外は地方の香りと味につつまれ、都会の人々は地方の味と食文化を堪能した。特に、瀬戸内町による黒糖作りの実演と試食は珍しく、できたての黒糖の美味しさに多くの人々が感動した。

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