東京農業大学

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教員コラム

動物の視点から考える

2007年1月1日

農学部バイオセラピー学科 准教授 川嶋 舟

アニマルセラピーの課題

「アニマルセラピー」という言葉を、最近耳や目にする事が多くなってきた。この言葉の意味する範囲は広く、日本では「動物介在療法」「動物介在活動」などと使われている。各地で「アニマルセラピー」の活動が行われており、様々な形で人間の生活に寄与する「アニマルセラピー」について、人間に対する効果のみが着目されることの多い中で、動物側の視点にたって考える事も大切なのではないだろうか。

 

人間と動物の関係

イヌやネコを家で飼育し、家族同様に日々の生活を送っている人も少なくないことだろう。私たち人間が飼う動物は、イヌやネコだけではなく、ウサギやモルモットなどのほか、オウムや九官鳥などの鳥、カメやヘビ、カエルなどの爬虫類や両生類、金魚やコイなどの魚類、さらには、カブトムシやクワガタなどの昆虫類など、実に多様である。

いったいなぜ人間は、動物に興味をもち、さらには動物を身近に飼おうとするのだろうか。家を守る番犬として飼っている人、観賞用として熱帯魚を飼っている人、仲間とその美しさを競うためにショードッグを飼っている人などその目的は様々だ。我々にとって、動物を飼っている人が、動物たちを家族の一員のように考えたり、友人の一人として感じたりしていることを想像することは難しくはない。さらに、動物を飼うということで身体的な側面や精神的な側面で喜びや満足感を動物から得ているなど、飼っている動物から良い影響を享受していることは動物を飼ったことのない人にとっても理解しやすいことだろう。

 

動物と付き合うこと

動物を飼うということは、食餌を準備し与える、散歩に連れて行く、排泄物の処理をするなど毎日の世話をしなければならないことを意味し、さらに、人間と一緒に生活をするためのルールをしつけとして教えなければならない。これらのことは、毎日の事で飼育する人にとっては負担も大きく大変なことである。

しかし、イヌなどの動物を飼っている人たちの多くはその負担を受け入れ、動物たちを家族の一員として生活している。動物を飼い始めるきっかけは様々であり、日々の負担があるのにも関わらず動物を飼い続ける人が多いということは、動物を飼うことによって人間が満たされているためであろう。いろいろな形で人間の健康へ寄与している「アニマルセラピー」は、これら長年の動物と人間との付き合いの中から自然と生まれてきたものではないかと私は考えている。

今「アニマルセラピー」について考えられているのは、人間側の視点から動物が人間にもたらす効果だけに着目されているのが現状である。しかし道具ではない生きた動物を使う「アニマルセラピー」の分野においては、新たな人間と動物との関わり方に着目をして動物側からの視点に立って理解と評価を行なう事も大切なのではないだろうか。

 

動物の負担

「アニマルセラピー」の分野に関わる動物は、私たち人間の健康への寄与や社会参画を促すきっかけを作ってくれる有能なパートナーであるからこそ、常に健康を維持することが動物福祉の点に鑑みても大切である。また、本領域で動物を用いるということは、動物を継続的に飼育管理することを意味し、動物がその一生を終えるまで命をあずかる覚悟を必要とする。「アニマルセラピー」分野で活躍している間だけでなく引退後も最後まで命を看取ることを忘れてはならない。

「アニマルセラピー」における取り組みは、人間の健康の寄与する一方、動物にとっては今までのように人間に飼われていた時以上の負担を強いられていることを常に意識し動物と接する必要がある。動物への負担は、主にストレスとして蓄積され、体調を壊すなど様々な症状として表れる。特に「動物介在療法」の分野で用いる動物については、日々いかにストレスを溜め込まないようにできるか、動物に配慮しなければならない。また、馬の場合は「アニマルセラピー」の取り組みの際には「乗る」という活動も行なわれるが、その時に用いる馬は、体、特に脚に故障のない個体である必要がある。

つまり「アニマルセラピー」の活動に関わる動物たちは、その活動に参加している間は常に強いストレスを受け続けており、一回の活動の長さに関わらず、長期にわたり継続的に「アニマルセラピー」の活動を動物とともに続けるためには、ストレスをどのように解消させるか配慮する必要がある。この活動に関わる動物も、常に肉体的にも精神的にも健康でなければならないのである。

 

動物の視点からの評価

最近は、「アニマルセラピー」とくに「動物介在療法」における人間への効果については様々な実践や研究が行なわれ徐々に明らかとなってきている。一方、それらの活動に関わる動物についての研究や動物の立場からの動物への配慮についての議論はまだ十分に行なわれていない。この分野での取り組みは、動物が存在し初めて成り立つものであり、動物の立場に立った視点からの検討も必要である。

「アニマルセラピー」分野における人間と動物との関係は、今までの人間と動物との関わりの歴史にはなかった異なる新しい関係であるからこそ、「アニマルセラピー」の効果について人間側からだけの視点で論議を進めていくと、動物への配慮がされなくなる懸念がある。動物福祉の点からも、「アニマルセラピー」について、動物側の立場にたった研究を進めていくことが必要ではないだろうか。

これから「アニマルセラピー」を行なう際には、人間側にもたらされる効果についてのデータを得るだけでなく、動物が人間と関わることによって動物たちがどのような影響を受けているかについても調査する必要がある。また、動物種によってもその条件が異なるので、それぞれの動物について分析をしなければならない。これらのような「アニマルセラピー」分野で用いられる動物について、取り組みに参加することによって動物が受ける影響についてデータを蓄積し、適切な動物管理の方法を見出し、人間と動物の新たな素晴らしい関係が構築される日を近い将来実現できるように研究を行っているところである。

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