東京農業大学

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教員コラム

赤いタンパク質タンパク質は攻撃する

2010年8月2日

東京農業大学短期大学部 醸造学科 教授
醸造学科食品微生物学研究室
前副学長
中西 載慶
主な共著:
『インターネットが教える日本人の食卓』東京農大出版会、『食品製造』・『微生物基礎』実教出版など

人には約10万種ものタンパク質がありますが、今回は、生命に直接関わるタンパク質を2つ紹介します。一つ目は、酸素を運ぶタンパク質の話。人間は、飲まず食わずでも1週間位なら生きられますが、酸素がなければ数分と生きていくことはできません。なぜなら、人体を構成する約60兆の細胞は、全て酸素を利用してエネルギー1)をつくり活動しているからです。例えば、最も重要な脳は、酸素の供給が2、3分止まると、脳細胞が破壊され始めます。この破壊が、脳の一部(大脳皮質)で止まったとしても植物人間状態になり、更に破壊が進めば脳死ということになります。ところで、酸素は、どんな仕組みで全身の細胞に送られるのか? 呼吸により肺に取り込まれた酸素は、まず肺の中の血液に溶け込みます。血液中にはご存知の赤血球があり、その中にヘモグロビンというタンパク質が存在しています。このヘモグロビンは4つのタンパク質が集まった構造をしていて、それぞれヘム(鉄原子を持ち赤色)とよぶ平らな部分があります。肺の中は、酸素濃度が高いので、この4つの部分に酸素がくっつき、血液の流れに乗って全身の細胞へと運ばれていくのです。酸素を受け取る細胞は、当然酸素を消費していますから酸素濃度は低いレベルです。濃度の低いところでは、ヘモグロビンの構造が変化し、酸素が放出されます。こうして、ヘモグロビンは効率よく酸素の受け渡しをしているのです。なお、ヘモグロビンは酸素が結合すると鮮赤色(動脈血の色)、結合していないときは暗赤色(静脈血の色)です。ところで、毎年冬になると、一酸化炭素中毒死のニュースを目にします。その原因は、一酸化炭素は酸素よりも、ずっとヘモグロビンにくっつきやすい性質があるからです。一酸化炭素が結合したヘモグロビンには、当然酸素が結合できません2)。従って、多量の一酸化炭素を吸入すれば、全身の細胞への酸素の供給が滞り、細胞は酸欠状態になり、死に到ることになるのです。

2つ目は病気から身を守るタンパク質の話。血液や体液中には免疫グロブリンというタンパク質(抗体ともいう)が含まれています。このタンパク質は体内を巡り、侵入してきたウイルスや細菌など(抗原ともいう)を見つけ出すと、それに取り付いて動きを封じ込めてしまいます(抗原抗体反応)。この抗原と抗体が結合したものを白血球やマクロファージという食細胞やリンパ球などの免疫細胞が取り込み分解してしまうのです。しかし、1種類の抗体タンパク質は、1種類の外敵抗原としか結合できません。従って、無数の侵入者である抗原を迎え撃つ抗体タンパク質は、それに相当する数が必要となります。それ故、人は数百万から数億種類もの抗体を作り出す能力をもっているのです。それでも対応できない抗原には、人工の抗体ともいえるワクチンを接種することになるのです。このような感染防御システムにより人は体と命を守っているのです。生命の仕組みは本当に凄い。ワクチンを考えた人も凄い。

気がつけば12月、今年もいろいろありました。1年、12ヶ月、365日、8,760時間、数字を大きくしてみても1年の長さは残念ながら変わりません。でも、頑張り時計、幸福時計、思い出時計、未来時計などの時間は心持次第で長くも短くもできますから…。

今年も1年、ご愛読ありがとうございました。新年号につづく。

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