東京農業大学

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教員コラム

[バイオマス戦略]樹木ごみなどを対象に研究

2010年10月18日

地域環境科学部生産環境工学科 教授 牧 恒雄

半炭化物でエネルギー化

本学のバイオマスエネルギー化は、ローテクノロジーを基本とし、この技術に新たな改良を加え、誰でもが容易に利用できるエネルギー化技術に転換することを研究の柱にしている。特に、世田谷キャンパスのバイオマスエネルギーセンターで取り扱っているバイオマスは生ごみと樹木ごみである。同センターでは、研究のための研究を行うのではなく、ある程度研究成果が出ている技術を地域社会で実際に実施する場合、どのような問題があるかを研究している。

 

木質バイオマスを利用

未利用バイオマスで賦存量が多いのは木質バイオマスである。日本の国土は67%が森林であるが、安価な輸入材に押されて国産材の市場価格が低下し、現在の木材自給率は20%程度で、森林資源は十分に活用されていない。また、日本の森林資源は、利用可能な林地の残材が年間400万t(乾物重量)発生するといわれているが、地形が急峻なことや間伐しても木材として売れないこともあって、林地残材が放置されたままになっている。

そこで、化石燃料が高騰したこともあって、木質バイオマスをエネルギー源として利用し、循環型社会のシステムに組み入れるための検討が行われている。

しかし、取り組むべき課題は多い。解体した建設系廃棄物には多くの有害物質が含まれている可能性があり、現在の所、燃焼させる以外にバイオマス資源として利用されていない。また、家庭に固形燃料を使うシステムがないことや、木質バイオマスが水分を多く含んでおり、木をペレット燃料に加工するにしても多くのエネルギーが必要なこともある。

 

ガス化技術の研究

エネルギー化技術の一つの方向として、バイオマスをガスにする技術がある。ガス化技術で研究されている水蒸気改質は、炭化水素やバイオマスを水蒸気と反応させ、合成ガスを得る方法で、天然ガスは、800℃以上の温度で触媒を用い外部から加熱反応させると合成ガスが得られるし、バイオマスは急速に500〜600℃まで加温し熱分解させると、メタノールや酢酸を含む熱分解液(木酢液やタール)とガスに変化する。しかし、木質バイオマスは水分を含み熱伝導率が小さいので、外部から急速に加温上昇させるには、大量のエネルギーが必要になる。

また、酸素を極端に制限し400〜600℃に加熱すると、木ガス(気体)、木酢液(液体)、炭(固体)が得られる。炭は燃焼カロリーは高いが、炭として得られる割合は400℃で30〜40%、900℃で25〜30%程度である。従って、炭の熱効率は一般に約45%程度といわれているが、炭化時に出る木ガスをエネルギーに転換できないと、エネルギー効率は14%程度になる。また、水は大気圧下で加熱すると100℃で沸騰して水蒸気になり、体積が1000倍に膨張するが、加圧すると沸騰温度が上がり水蒸気の膨張率は小さくなる。

1 MPa(10/)の圧力下では水は181℃で沸騰し、水蒸気の膨張率は180倍程度と小さくなる。さらに温度や圧力を上昇させた臨界状態(373℃、22.1 MPa)では液体と気体の区別がなくなり、この状態でバイオマスを反応させると効率よく可燃性ガスに転換できる。しかし、臨界状態にするためには、膨大な設備とエネルギーが必要になる。

このように、固形物である木質バイオマスをガス等のエネルギーに転換するには、大きな設備と大量のエネルギーが必要で、小規模なエネルギー利用を考えている農大のシステムでは、炭のような炭素分を生かしたエネルギー化技術が必要になる。

 

農大オリジナルの構想

現在、木質バイオマスの利用方法として多く用いられているのは、生木を乾燥圧縮してペレット状に加工し、これを燃焼させるペレット燃料や、炭にして利用する方法がある。炭化は各地で行われているが、作った炭を誰がどこで使うのか、各家庭には固形燃料を使う装置やシステムがないのに、炭をどのようにエネルギーとして使うのかが問題である。また、ペレット燃料も製造時に多くの乾燥や圧縮エネルギーが必要で、燃焼時の煙や灰などが気になる。一般には、白木の芯材で作ったペレット燃料はカロリーが高く煙が少ないと言われている。

焚き火が禁止になり木を燃やすことが出来なくなった家庭に、ストーブなどがあれば、炎の優しさや暖かさ感じる事が出来るが、現状では無理である。そこで、木質バイオマスのエネルギー化では、次のような概念でエネルギー化を実施している。

生木は水分を多量に含んでいるので、燃焼させると約2000/㎏のエネルギーしか得られないが、炭化すると8000 /㎏のエネルギーになる。しかし、1tの木を炭化しても炭になったときは約400㎏しか得られない。そこで、無理に炭化せずに、「やや炭」とか「ちょっと炭」とか、「半分炭」とかの概念で処理し、エネルギー的には、石炭ほど良質ではないが代替エネルギーとして使われている褐炭(約5000/㎏)と同程度の燃焼エネルギーがあれば、利用価値が生まれてくると考えた。

 

「圧力鍋」の原理を応用

短時間に木を半炭化する方法として、環境負荷の少ない方法、短時間で誰にでも出来る技術等を基本に考え、水蒸気を用いた炭化システムを考えた。水蒸気を用いる技術は家庭にある「圧力鍋」と同じ原理である。圧力鍋で調理すると、普通の鍋に比べて短時間で魚の骨も食べられるほど軟らかく調理出来る。この技術をバイオマスの炭化に応用したシステムである。研究者としては、高温高圧の機械が欲しいが、多くの人に利用してもらうには安価なシステムでないと普及しない。そこで、カタログに載っている市販のボイラーで作れる温度と圧力200℃、1.9 MPaであった事から、本システムでもこの普及品のボイラーを用い、密閉容器に木をいれて改質する方法で行った。いろいろ実験を行った結果、1時間水蒸気で改質すると木が5000/㎏の燃焼エネルギーを持つ半炭化物になり、収量も75%得られる事が分かった。籾殻や稲わらなどの食べることができない農業非食用部もこの機械で炭化できるので、これらを樹木などと混合してペレットに加工すると、5000/㎏のエネルギーを持つペレット燃料が農業の廃棄物から得られる。まさに、炭というローテクノロジーである。

 

竹の燃料化も可能

半炭化物は木質バイオマス以外に、農村の里山で猛繁殖している竹も燃料化が可能である。農業の合間に不要なバイオマスを切り出し、農協などに置いた水蒸気の炭化装置で半炭化し、半炭化ペレットを作ってエネルギーとして利用してもいいし、小さく粉砕して半炭化した木をそのままハウスの暖房用の燃料として利用する事も可能である。農業のエネルギーを化石燃料に頼るのではなく、農村に賦存するバイオマスから作るシステムである。

デンマークでは、木質バイオマスを発電に使っている。デンマークは九州ぐらいの広さに500万人の人々が住んでいる国であるが、標高が一番高いところでも170程度しかない平坦な地形である。また、氷河が運んだ礫や岩の上に有機物を含んだ表土が薄く乗っている地質構造で、強雨が発生すると倒木する樹木が多くある。従って、木を切りだして利用するのに多くの経費がかからない。また、この国は地域の集中暖房に水蒸気等を用いている。農家は大量の麦わらを暖房用に提供する代りに、冬の間の暖房費を無料にしてもらっている。バイオマスの熱利用が地域の生活に密着している国ではこの様な使い方がある。

我が国では、まだ木質バイオマスの利用は定着していないが、化石燃料が高騰してくると、化石燃料を使った農業が成り立たなくなる。地域のバイオマスを地域の人が使うのは理にかなった利用方法である。

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