東京農業大学

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教員コラム

「多摩川源流大学」を創設

2010年10月18日

地域環境科学部森林総合学科 教授 宮林 茂幸

地域の自然、生活、文化を体験

<現代GPとは>

現代的教育ニーズ取組支援プログラム。社会的要請の高いテーマに取り組む大学や短大などの財政を支援する制度で、次代を担う人材を養成する。GPはGood Practice(優れた取り組み)の略。

平成18年度は、「地域活性化」「環境教育」など6テーマで公募した結果、565件の申請の中から112件が採択された。

21世紀は「環境の時代」といわれる。20世紀の発達した資本主義経済による生産力とそれに伴う都市の急速な発展は、物質的豊かさを形成し、近代的な生活環境をもたらした。しかし、経済効率至上主義による生産構造は、自然資源や地下資源を浪費し、文化資源をも解体しながら自然環境の破壊や地域間の不均衡を発生させた。

高度情報化社会と言われながら、それらの情報がともすれば「知識」の陳列棚と化し、「知恵」として生かされていないのではないか。そこで、知識を知恵に昇華する方策として、古くから地域に根ざしてきた文化を学習体験することが必要だと考えた。地域で生活する人々は自然から多くの「知識」を得て、自然と一体化した「知恵」となり文化として発展させてきた。この追体験の教育的効果は計り知れないほど高いと思われる。

ここでは、その取り組みの場を「多摩川源流大学」と名づけた。多摩川上流域・源流域の自然や文化について、多様な専門分野の学生による体験教育(農環境教育)を展開、存続の危機にある源流域の再生を進めようとするものである。

 

小菅村住民らと連携

東京農業大学では、すでに2001年度から多摩川上流域の小菅村、その住民、関連企業と連携して、森林再生事業に取り組んでいる。「多摩川源流大学」は、この小菅村から、さらに下流域の大学や住民、企業等を含めた幅広い連携によって創設される。これによって、本学における環境教育および実習・演習などは源流域に再構築されることになる。

また、環境循環型の新たな社会づくりをめざし、新たな価値観を創造するために、それを裏付ける基本概念、基本的な理論体系として、「源流学」を提唱する。源流域の文化や伝統芸能あるいは高度な環境循環型技術(多様な匠)などを総合化、体系化し、環境循環型の社会形成に資するとともに、本学の教育目的である実学教育および「環境学生」の創出、環境の時代を担う人材養成を可能にするだろう。

 

総合農学を担う本学の役割

源流域の文化は、主に「農」文化や「自然」文化そのものである。地域特有の生活文化は、地域の自然と共生した循環型の営みがあればこそ築かれている。特に、その原型は源流域に保たれ、環境保全型の農林業による本物のものづくりが残されている。

そうした源流域の自然や生活文化あるいは生活の知恵などを継承・指導するのは、総合農学を展開している本学が担うべき役割である。また、源流域が自然体験など新たなメニューによる地域づくりを進める際、森林管理、木材生産、地域ならではの農産物生産、食文化、農山村景観などの各分野で、実績のある本学と連携する意義は大きいと自負している。

この試みをモデルケースとして、さらに全国的に発展させることも可能となろう。地域づくりは、かつての生産力、経済力向上を求める段階から、安全で、豊かで、生き甲斐のある健全な生活環境を望む段階へと転換しつつあり、都市と農山村、源流と下流が適正に連携した循環型の社会の形成が求められている。今日のスローフーズやエコライフあるいはエコツーリズムなどの進展は、正にそれを裏付ける社会現象といえる。

 

森林体験など4コース

「多摩川源流大学」のカリキュラムは、当面、以下の4コースを考えている。

第1は、森林体験コース。源流域の森林を適正に保全すること、適正に管理すること、適正に利用することなどを本学の専門家の指導で学ぶ。また、森林ボランティアや地域住民、森林組合、企業などの支援を得て、森林診断による森林再生を体験学習するコースである。これは2001年度から実施されており、1泊2日を1年に4回開催。全行程に参加した者は修了書を授与され、さらに農大の特別カリキュラム単位1を取得することができる。

第2は、源流農業体験コース。源流域の厳しい自然条件、特に急峻で、狭いという地形的条件における農業の原点を認識し、源流域の農業技術を再生するとともに、循環型農業を再構築する。

第3は、源流景観体験コース。源流ならではの景観を認識し、保全し、再生することなどについて、本学並びに他大学による専門的な指導を行う。自然景観と文化景観の調和、暮らしと景観などの保全、再生を体験する。

第4は、源流文化体験コース。源流域における生活の知恵や技、すなわち、地域特有の生きるための技術や技能を実際に体験する。伝統芸能や祭り、民芸品づくり、民話など、本物の「ものづくり」と「ことづくり」を体験し、学習するコースである。

なお、これらのコースは、参加する回数や参加メニューなどによって、段階的にレベルアップするような仕組みを整備するとともに、本学のカリキュラムとも調整し、単位の互換が可能となるように整備する。

 

幅広い分野の学生参加を

「多摩川源流大学」による各種の体験は、感性性・創造性豊かな人間形成に資するなど、学生たちに大きな教育効果をもたらすだろう。その上で、上下流域住民間の相互連携、厳しい状況にある源流域の活性化につながる。

将来的には、幅広い研究分野の学生や市民が参加できるプログラムとして構築したい。例えば、小中学校の教員をめざしている学生たちは、ぜひ源流の自然や文化を体験してほしい。建築関係の学生たちは、まず杉や檜など生の木を伐ることを体験すべきだろう。食品加工分野に就職したいと考えるなら、味噌や醤油の加工の体験を経て実社会に巣立てば、すばらしいことではないか。

今後、多摩川の下流域に位置する各大学などにも呼びかけ、大学コンソーシアムとして多くの学生、一般市民や企業なども参画できる事業に展開させたい。さらに、全国の源流域における地域再生のモデルプロジェクトになるよう鋭意、推進したいと考えている。

 

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