東京農業大学

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教員コラム

種苗類には厳しい隔離検疫も

2005年6月1日

農学部農学科 教授 根岸 寛光

植物検疫の現状を考える(中)

ジャガイモの隔離栽培

果樹類、イモ類、花卉球根類などの栄養繁殖する種苗類は、重要なウイルス病の発生源となる可能性が高く、港湾ですぐには汚染が確認できない。このため、必要があると認められた場合には隔離栽培を行い、ウイルス病等を対象とした各種の検査を行う。これを隔離検疫という。

ここでは、一定期間実際に栽培した後に現れる病徴の有無、検定植物への接種、抗血清、電子顕微鏡、PCR等による検定が行われる。ジャガイモ(馬鈴薯)種子塊茎は隔離栽培対象物件であるが、生食用として輸入しようとしても、可食部が繁殖用種子塊茎と同一であるため両者を区別できない。このためジャガイモ塊茎はすべてが隔離検疫に回されることになり、隔離栽培が可能な量しか輸入できないことになる。

その上、隔離栽培地でウイルス等の検査のための栽培期間を経ると、輸入当初は大きくて立派だった塊茎が見るも無惨にやせ衰えた姿に変わってしまい、とても生食用として販売できない状態となる。これなどはある意味で、非関税障壁の最たるものと言えなくもない。ちなみに我が国最大の隔離圃場は神奈川県大和市にある(横浜植物防疫所大和圃場)が、その面積はわずか2haに過ぎない。

 

現地での海外検疫も

これら隔離栽培対象物件の中で、輸出国の栽培地においてわが国で行われるのと同等の検査制度が確保できるとされたものについては、わが国へのウイルス病等の侵入を防ぐことが可能と考えられるため、隔離検疫に代えて栽培地(現地)での検査を行うことがあり、これを海外検疫といっている。

この隔離検疫代替措置の最初の事例はオランダからの花卉球根類についてのもので、最初にオランダ政府から適用申請が行われ、両国間での技術レベルでの協議や日本の植物検疫専門家による現地調査等を経た後、1988(昭和63)年にチューリップで最初に導入された。その後、ユリ、ヒヤシンス、アイリス、クロッカス、フリージア、アマリリス、グラジオラスにもこの措置が拡大され、ニュージーランドのチューリップ等でもこの措置が認められるようになった

 

厳しい輸出検疫

国内に輸入される植物が検査されると同様、諸外国においても港湾において我が国から輸出された植物が検疫を受ける。このような場合、国際植物防疫条約では輸出国がその植物を検査して病害虫に汚染されていない旨を明記した証明書を添付することが求められている。その基準は輸出先によって大きく異なり、非常に厳しい制約を求めてくる国もあれば、ほとんど検疫がないと同様の国もある。

我が国はそれほど多量の植物を輸出してはいないが、輸出されている品目はそのほとんどが高品質であり、そこに添付される証明書も極めて質の高いものが求められる。我が国の植物検疫は輸出先の求めに応じた輸出検疫からスタートしたこともあり、厳しい検疫を行って相手国からの信頼を得ている。

我が国から輸出される代表的な品目の中には盆栽のような生殖物があり、最近では高品質の果物などが見られる。

 

TVオレンジの検疫

その一例としてアメリカ合衆国向けのウンシュウミカンの事例を説明しよう。ウンシュウミカンは手で皮がむけてテレビを見ながらでも気楽に食べることができるため、アメリカではTVオレンジとして人気が高い。アメリカ合衆国は非常に厳しい検疫制度を持つ国であり、特にカンキツについては我が国に発生するミカンかいよう病(Xanthomonas axonopodis pv.citri)の持ち込みが非常に警戒されている。

このため、アメリカ合衆国向け輸出用ミカンを栽培する場所はかいよう病防除が特に濃密に行われており、輸出対象ミカン栽培地域はもちろん、その周辺の緩衝地帯にもかいよう病の発生が見られず、さらに輸出される果実そのものに病原細菌が付着していないことを、かいよう病菌に特異的に寄生するファージの有無で検定し、かいよう病フリーであることが認められたものだけが輸出許可されるという非常に厳しい条件が付されている。この検査には日本だけでなくアメリカの検査官も同行し、検査が適正に行われたことを証明書に明記することが求められている。現在ではアメリカ合衆国内のフロリダ州以外の州に、このような日本産のミカンが輸出できるようになっている。

この他、条件付で輸出される国内農産物には、アメリカ合衆国とオーストラリア向けのナシ(二十世紀とゴールド二十世紀)、アメリカ合衆国向けリンゴ(ふじ)、ニュージーランド向け温州ミカン等があり、それぞれについて厳しい条件のもとに輸出検査が行われている。

 

国内検疫

これまで述べてきたような国際間の物流に関して行う植物検疫に対して、国内での特殊な病害虫の蔓延・拡大を防ぐために行われるのが国内検疫である。この中には、海外からの侵入の危険性の高い病害虫に対する侵入警戒調査、侵入間もないかまたは極めて限定的な発生の見られる病害虫に対する撲滅事業や、特定の種苗に対して行われる検疫事業が含まれる。これらの事業はこれまでの国際検疫に比べるとより一層一般人の目に触れにくく、地味を絵で描いたような業務となっているものが多い。次回は、その国内検疫について詳述したい。

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