東京農業大学

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教員コラム

地球のかくし玉、乳酸菌のパワーを探る

2010年10月15日

応用生物科学部生物応用化学科 教授 岡田 早苗

「乳酸菌」という言葉を皆さんは必ずどこかで聞いていますよね。ヨーグルトで有名ですね。しかし、「乳酸菌」はヨーグルトだけでなく、皆さんの気づかないたくさんのところで働いているのです。
そこで、東京農業大学応用生物科学部の岡田早苗教授が、身の回りのいたるところにいる「乳酸菌」の知られざる姿や可能性について語ってくれます。

 

エッ!こんなところにも乳酸菌?

体に良いことで有名な乳酸菌は、乳という字からミルクのイメージがありますが、ミルクの味がするわけではありません。細菌(バクテリア)の一種で、糖を発酵してたくさんの乳酸をつくります。乳酸菌は食品中でまろやかな酸味の乳酸をつくり、そして食品の腐敗を防ぎます。さらに乳酸菌は人の健康には欠かせない存在で良いことづくしの細菌です。
生きた乳酸菌と乳酸を含む代表食品といえば牛乳を発酵させたヨーグルト。健康のために毎日口にしている人も多いことでしょう。これは大変に良いことでしょう。けれども、日本人が牛乳をたくさん飲むようになったのは、明治時代中期以降のこと。ヨーグルトにいたっては昭和30年代のこと。では、それまで日本人は乳酸菌に出会っていなかったのでしょうか? それは違います。
乳酸菌が生息するのは、炭水化物(糖質)、タンパク質、ビタミンなどの栄養素が豊富なところ。野菜や穀物など植物原料にも乳酸菌(植物性乳酸菌)はいるのです。日本人が昔から食べてきた漬物、甘酒、味噌、醤油といった発酵食品には乳酸菌が必ず生息し、おいしい味付けをしてきました。それらを通して、日本人は昔から乳酸菌を体に取り入れてきました。

 

腸までとどけ!!植物性乳酸菌

乳酸菌は口から入って腸にとどくまでに、胃酸や胆汁酸、消化液などの過酷な環境をくぐり抜けなければなりません。乳酸菌が生きたまま腸にとどいたとき、ビフィズス菌などの善玉菌を増やし、大腸菌などの悪玉菌を追いだし、腸内の環境を整えて消化吸収機能をアップします。また最近の研究から、乳酸菌が腸管内の粘膜面に到達することにより、病原菌やウィルスを攻撃してくれる抗体生産が盛んになり、病気に強い体ができ、さらにガンなどの抑制機能も発揮することがわかってきました。
植物に含まれる辛みや苦み成分は細菌の繁殖を抑える物質ですが、植物性乳酸菌はそんな環境でも耐えることができます。白菜キムチのように、辛み成分たっぷりの過酷な環境でも植物性乳酸菌は力強く、人の体に入っても免疫力を高めるパワーは失われません。
日本人は昔からごはんや漬物をたくさん食べてきたことから、西欧人よりも腸管がちょっとだけ長いことがわかっています。腸管の奥までとどく植物性乳酸菌がたくさんいる伝統発酵食品は日本人には適していると想像でき、我々の和食文化は健康面で実に理にかなったものであったことがわかります。

 

すっぱい乳酸がプラスチックに!?

プラスチックは、いまや便利な生活を送るためにはなくてはならない必需品のひとつ。ただ、原料の石油はいずれは枯渇する有限な資源。また石油からできるプラスチック分解されず、燃やすダイオキシンを発生するなど地球環境にとって、いいものとは言い難いところがあります。
それを解決するのが、乳酸菌が作る乳酸が原料となってできる「乳酸プラスチック」。これは優れもので、土に埋めると自然に分解され、燃やしても発熱が少なく有害物質も発生しない、環境にやさしいプラスチックです。クリアファイルやシャープペンシル、自動車内の内装・部品など、すでに一部が製品化されていますが、今後はいかに安く生産するかが課題です。
このように乳酸菌は我々の生活と密接に結びついていて、すでにたくさん利用されていますが、地球上にはまだまだ未発見の乳酸菌がたくさんいることがわかっています。優秀な乳酸菌を見つけ出すと、新しい用途も拡がります。豊かな生活の可能性を求め、「未知の乳酸菌探索」の観点から挑戦するのも農学のおもしろさです。

 

 

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