東京農業大学

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教員コラム

ク リ

2015年11月1日

地域環境科学部 森林総合科学科 教授 江口 文陽

天然物を利用した食彩(7)/最終回

『日本グリ』を食して里山再生を・・・

 日本人にとっての季節を感じる食材の一つに“クリ”がある。クリの堅果は、縄文時代から食されていたことが遺跡の発掘調査から確認された。日本グリの堅果の成分は、水分が55%以上と多く、炭水化物が35%を超える組成であり、他の木の実と比べると脂質が少ないことから煮蒸グリや焼きグリとして食すばかりでなく、渋皮煮、甘露煮などに調理したり、ペースト状にして和菓子や洋菓子などにも加工利用される。
 ブナ科の木本植物に分類される日本グリの原生種はシバグリである。シバグリは、北海道から九州まで日本の広い地域に自生している。日本グリには多くの品種があったが、第二次世界大戦後クリの新芽に虫こぶを作る害虫のクリタマバチ被害が全国に蔓延したことでクリタマバチ抵抗性品種が栽培されるようになった。クリは堅果の利用ばかりでなく、材の耐久性が高いことから住宅の土台材、鉄道の枕木材として活用されてきた。戦後、製材利用の拡大と共にクリタマバチ被害により巨木になる品種の多くが淘汰されたこともあり、現在では土台材や枕木材として利用することは少なくなっている。しかしながら、環孔材特有の木目が美しいことや日本グリを好む木製品愛好者は多いことなどから、家具や木彫品、玩具などに利用されている。
 成人対象の講演会で163人(平均年齢48歳)にアンケートを実施した。「“クリ”といって思い浮かぶ食品は?」との質問に対して約半数が「天津甘栗」、次いで「マロングラッセ」と答えた。クリは世界的にみると主に4種類が栽培されているが、日本人のイメージした「天津甘栗」は含水率が低く焼きグリに適した中国グリ、「マロングラッセ」は西洋グリを使うことが多い。それは、クリの種類によって大きさ、含水率、渋皮のむけやすさなどが異なるからだ。日本グリは、大きく、渋皮はむきにくいが含水率と炭水化物が豊富なため調理や菓子の原材料に向いているのだ。また、渋皮のむきにくさはタンニン量が関与している。タンニンは、ポリフェノールの一種でもあり抗酸化活性物質として機能を発揮する。日本グリは、他のクリと比較しても機能性も高いことから我が国の資源として誇れる天然物の一つでもある。日本グリの食品素材としての需要拡大を図り、クリの植林や森づくりも推進し里山再生を目指したいものである。



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