東京農業大学

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教員コラム

いぶし銀沈黙は金、雄弁は銀

2010年8月2日

東京農業大学短期大学部 醸造学科 教授
醸造学科食品微生物学研究室
前副学長
中西 載慶
主な共著:
『インターネットが教える日本人の食卓』東京農大出版会、『食品製造』・『微生物基礎』実教出版など

貴金属の2番目は、銀の話です。銀は、紀元前4000年頃アナトリア地方(トルコ)で発見され、紀元前3000年頃には、シュメール人により銀製品が作られていたようです。現在では、生産規模も大きく、比較的容易に手にすることが出来るので、貴金属のイメージが薄れていますが、古代エジプトでは、金よりも価値が高かった時代もあったといわれています。その理由は、銀は金と異なり、自然銀(銀そのもの)として産出されることは極めて少なく、ほとんどは鉛、銅、亜鉛の硫化物と共存する輝銀鉱やアンチモンやヒ素を含む濃紅銀鉱などの硫化物鉱石として産出されます。従って、銀の精錬技術が発達するまでは、極めて得にくい貴重な物質だったのです。ちなみに、有史以来の銀の産出量は推定100万トンあまり、埋蔵量は推定40数万トン、いずれも金の約10倍相当です。しかし、採掘可能年数はどちらも約20年といわれていますから貴重な金属に違いはないのです。銀の二大生産国といえば、メキシコとペルーで、世界の総生産量の30%以上を占めています。次いで、豪州(10%)、中国(8%)、以下ポーランド、米国、カナダの順です。世界遺産として有名な石見銀山は、江戸時代には世界有数の銀鉱山で、特に高い銀精錬技術を誇っていたといわれています。
 物質としての銀の特徴は、あらゆる金属の中で、最も電気伝導率と熱伝導率が高いことと融点(溶ける温度)が低いことです。また、可視光線(目に見える光)に対する反射率が高いこと(銀白色の美しい色にみえる)、多くの金属と優れた合金が作れることが大きな利点です。これらの性質を利用して、銀は、宝飾品や銀食器、コインやメダル、写真フィルム産業、エレクトロニクス産業などに広く利用されています。最近、銀の殺菌効果が注目されていますが、その話は次号に。なお、銀は純度92.5%以上を純銀と呼んでよいとされています。指輪などに925とか950と刻印されているのは銀含量に対応した数字です。また、Sterlingと刻印されているものも純銀を意味し、それは昔、Sterling家(英国)が一手に銀を取り扱っていたことに由来するとのことです。純度100%の銀は、白すぎることと柔らかすぎてアクセサリーに向かないことから、通常は銅を少し加え硬さと輝きを付加しているのです。古い銀食器の黒ずみや温泉地での銀の指輪やネックレスの黒ずみは、よく観察されることですが、これは銀が空気中のイオウ成分と反応し硫化物が生成するからです。ただし、この反応は銀の表面で起きていますから、磨き布や磨き粉で簡単に落とすことができます。もっとも、宝飾品加工の分野では、銀のこの性質を利用して、わざと銀表面にイオウを塗り黒くする「いぶし加工」があります。俗に言う、「いぶし銀」なる言葉もここから来ています。
 4月、学校は新入生がいっぱい。「しろがね(銀)も、くがね(金)も玉も、なにせむに、まされる宝子にしかめやも」(山上憶良)。万葉の昔から、子を思う親の気持ちは変わりません。金融危機、不況、明るさが見えませんが、今こそ、親子、家族、地域の絆を深め、心の豊かさや助け合い支え合う人間関係の素晴らしさを再考・復活するチャンスかも…。銀の話、次号もつづく

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