東京農業大学

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教員コラム

酸っぱいビタミンカムカムはすごい

2010年8月2日

東京農業大学短期大学部 醸造学科 教授
醸造学科食品微生物学研究室
前副学長
中西 載慶
主な共著:
『インターネットが教える日本人の食卓』東京農大出版会、『食品製造』・『微生物基礎』実教出版など

ビタミンCは、学術名をアスコルビン酸といい比較的簡単な構造(C6H8O6)の物質です。酸味を有する無色の結晶で、水やアルコールによく溶けますが、熱や光、アルカリ性には不安定です。世界では、100万トン以上も生産され、お菓子、飲料、食品の酸化防止剤、サプリメントなどに幅広く利用されています。工業的には、ブドウ糖を原料に、発酵法、化学合成法、酵素法などを組み合わせて、安価に大量に生産されています。勿論、果実から抽出・製造することもできますが、かなりコストが高くなってしまいます。なお、工業的に製造されたビタミンCも果実のビタミンCも、同一物質で、その効果も全く同じです。

ビタミンC発見の歴史は、前号で紹介したビタミンB1とよく似ています。15〜17世紀の大航海時代、長い船旅の中で多くの船員が原因不明の病気で死亡しました。バスコ・ダ・ガマのインド航路発見(1498年)の航海では、180名の船員中100人が死亡したと伝えられています。この病気は、現在では壊血病(出血性障害が体内の各器官で生じる病気)として知られていますが、当時はもとより、長い間、原因不明の病気でした。しかし、1753年イギリス海軍のリンドは、食事環境の良好な将校達には発症者が少ないことに気がつき新鮮な野菜や果物を摂ることで予防できることを見出しました。その後180年余りの歳月と幾多の研究を経て1933年、ウォルター・ハース(英)により、ビタミンCの構造が決定されアスコルビン酸と命名されました。ところで、ビタミンCが欠乏すると、なぜ壊血病になるか? というと、ビタミンCは、体内の血管や各組織を維持するために必要不可欠なコラーゲンの生成に関係しているからです。つまり、ビタミンCが不足してコラーゲンの生成が進まなければ、各組織は弱く脆くなりますから、歯がぐらついたり、血管や皮膚から出血したり、免疫機能の低下や貧血など、いわゆる壊血病特有の症状を呈するようになるのです。なお、多くの動物や植物は、ビタミンC合成能を持っていますが、残念ながら、人やサルなどには、その能力がありません。従って、常に、食物として摂取しなければならないのです(適正量は成人1日100・)。

ところで、最もビタミンC含量の多い果実は? というとカムカムです。カムカムとは、南米ペルーのアマゾン上流域で自生するフトモモ科の植物で、木の大きさは、6〜8m、乾季の頃、直径10〜30・の真っ赤な球形の果実をつけます。この果実100g中には、なんとレモンの60倍に相当するビタミンC(2800・)が含まれているとのこと。現在、本学出身の鈴木孝幸氏は、ペルー・アマゾン流域の貧しい農民の一部が現金収入の手段として麻薬(コカイン)の原料であるコカの栽培に頼っている現状を憂い、コカの代替作物として、このカムカムの栽培と普及に尽力されています。ご支援を1)。ちなみに、「レモン○個分のビタミンC」などの表現で使われている、このレモン1個分とは、ビタミンCを含む菓子の場合に決められた数値でビタミンC、20・を意味します2)。ビタミンCには、シミ・ソバカスの予防、ストレスの緩和、免疫力の増強などの効果もありますが、その話はいずれまたということに。カムカムジュースでリフレッシュして、次号「窒素」につづく。

1) カムカム協会:東京本部(東京農大、豊原秀和教授)、ペルー本部(会長:鈴木孝幸氏)。

2) 昭和62年に農水省によって決められた「ビタミンC含有菓子の品質表示ガイドライン」による。

カムカムドリンク缶入り(右)ペットボトル、アガベ入り(左)、詳しくは農大ホームページで

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