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ニュースリリース

農産物の廃棄部位に含まれる機能性成分の発見 ~サクランボ軸に含まれるクリシン-7-グルコシドはLDL受容体発現を上昇させて抗動脈硬化作用を示す~

2023年7月11日

教育・学術

東京農業大学 応用生物科学部 農芸化学科 井上 順 教授と藤巻 貴宏 助教、生命科学部 分子生命化学科 石神 健 教授による学内共同研究(*2)チームは、サクランボ軸の抽出物からLDL受容体(*1)発現を上昇させる機能性成分クリシン-7-グルコシド(Chrysin 7-O-β-D-glucopyranoside)を発見しました。

今回の研究成果は、科学雑誌「FEBS Open Bio」(IF=2.792, オンライン6月26日付)に掲載されました。

発表のポイント

①    サクランボ軸の抽出物にLDL受容体遺伝子の転写を促進する成分が含まれることを明らかにし、クリシン-7-グルコシドをその活性成分として同定しました。

②    クリシン-7-グルコシドはAMPKの活性化を介してLDL受容体発現や活性を上昇させることを明らかにしました。

③    廃棄部位であるサクランボ軸からの機能性成分の発見は、サクランボに付加価値を付与し、廃棄される資源の有効利用に繋がることが期待できます。

発表概要

LDL受容体の活性化は血中LDLコレステロールの低下につながることから、本タンパク質の発現上昇は動脈硬化発症のリスクを低下させることが期待されています。本研究では、農産物の付加価値の向上および有効利用を目指し、廃棄する部位からLDL受容体の発現を上昇させる機能性成分を同定し、その作用機構を解明することを目的としました。
東京農業大学 応用生物科学部 農芸化学科 井上順教授らの研究グループは、サクランボ軸の抽出物に、LDL受容体発現を上昇させる成分が含まれることを見出しました。活性成分の一つとして、クリシン-7-グルコシド(Chrysin 7-O-β-D-glucopyranoside)の単離・同定に成功し、有機合成したクリシン-7-グルコシドに同様の活性があることを明らかにしました。
クリシン-7-グルコシドはAMPKの活性化を介してLDL受容体遺伝子プロモーター活性を亢進すること、さらにその発現上昇はLDL受容体活性の増強につながることを示しました。また、サクランボ軸の抽出物にはクリシン-7-グルコシド以外にも、LDL受容体発現を上昇させる成分が存在することを明らかにしました。
以上の結果から、廃棄部位であるサクランボ軸に抗動脈硬化活性をもつ機能性成分クリシン-7-グルコシドを見出しました。この成果は、サクランボの価値を高め、廃棄される資源の有効利用に繋がることに加えて、動脈硬化性疾患予防に関して科学的エビデンスに基づく新たな機能性食品の開発へ応用されることが期待されます。

本研究は、JSPS科研費(21H02145)および東京農業大学 大学院先導的実学研究プロジェクトの助成を受けたものです。

*1用語解説:

 LDL (Low-density lipoprotein)受容体
 LDL受容体は血液中のLDL粒子を細胞内(主に肝臓)に取り込みます。動脈硬化症発症のリスクファクターの一つに血中LDLコレステロールの上昇があり、LDL受容体の発現上昇は血中LDLコレステロールの低下に繋がることから、LDL受容体の発現上昇は抗動脈硬化のターゲットとして有効であると考えられます。

*2研究体制

東京農業大学 応用生物科学部 農芸化学科
研究代表者 井上 順 教授
金目 尚輝(当時 博士前期課程)、藤巻 貴宏 助教、堀越 笙太郎(当時 博士前期課程)、小高 愛未 博士研究員、鈴木 司 准教授、山本 祐司 教授

東京農業大学大学院 生命科学部 分子生命化学科
藤村 海人(当時 博士前期課程)、若森 晋之介 助教、勝田 亮 准教授、石神 健 教授

図 サクランボ(佐藤錦)軸の抽出物にはLDL受容体発現を上昇させる機能性成分クリシン-7-グルコシドが含まれている

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