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ニュースリリース

研究成果「もみ殻バイオ炭の土壌への鋤き込みを深くすれば作物根系の発達や養分吸収量が増加」 | 農芸化学科 犬伏 和之 教授ら

2025年8月21日

教育・学術

もみ殻バイオ炭の土壌への鋤き込みを深くすれば作物根系の発達や養分吸収量が増加

発表者

S. Gaurav 博士, B. Diptanu 博士, Chandra M. Mehta 教授, K. Prasann 博士,(インド、ラブリープロフェッショナル大学 農学部)
西原 英治 教授(鳥取大学 農学部)
犬伏 和之 教授(東京農業大学 応用生物科学部)
須藤 重人 博士(農業・食品産業技術総合研究機構 農業環境研究部門)
林田 佐智子 博士、P. K. Patra 博士(総合地球環境学研究所)
Tatiana Minkina 博士, Vishnu D. Rajput 博士(ロシア、南方連合大学 生物バイオテクノロジー学部)

発表のポイント

1. 大気中のCO2など温室効果ガス濃度増加に伴う地球温暖化の緩和策として、国際的に土壌への炭素貯留量の増加対策が注目されている。

2. 稲もみ殻バイオ炭の土壌への施用深度を20cmにまで深くすることで、無添加や5-15cmまでの施用に対してトウモロコシ根系の発達やNKP吸収量が増加することが根箱試験で示された。

本研究の成果から、土壌の炭素貯留量と作物収量の両方を増加させることが期待できる。

発表概要

稲の収穫後に稲わらなどを焼却すると、大気中に大量の汚染物質が放出されます。これによって大気汚染や健康被害が懸念されています。稲わらなどの焼却を減らすため、酸素を制限した条件で燃焼させバイオ炭注2)として圃場にすき込めば、大気汚染の削減と地球温暖化の対策として有効であると世界的にも注目されていますが、作物生産への影響が未解明でした。

本研究は、バイオ炭の鋤き込みを深くすれば作物根系の発達や養分吸収量にどう影響するか、またバイオ炭の組成の影響も探求したものです。ラブリープロフェッショナル大学 農学部(インド)S. Gaurav博士らは、西原教授(鳥取大学)、犬伏教授(東京農業大学)、須藤博士(農業・食品産業技術総合研究機構)、林田博士ら(総合地球環境学研究所)、T. Minkina博士ら(ロシア、南方連合大学 生物バイオテクノロジー学部)と共同研究により、稲もみ殻バイオ炭の土壌への施用深度を20cmにまで深くすることで、無添加や5-15cmまでの施用に対してトウモロコシ根系の発達やNKP吸収量が増加することを根箱試験で明らかにしました。この成果は、土壌の炭素貯留量と作物収量の両方を増加できることを示すものです。

発表内容

研究の背景
北インドに位置するパンジャーブ・ハリヤナ地方では、稲の収穫後に多くの稲わらなどを焼却するため、大気中に大量の汚染物質が放出されます。その影響は首都デリーにまで及んでいることが指摘されています。地球研のAakashプロジェクト注1)では、大気浄化と健康被害改善に向け、パンジャーブ・ハリヤナ地方における持続可能な農業への転換のために、人びとの行動を変えるためにはどうしたらよいか、その道筋を探求しました。稲わらなどを焼却するかわりに、酸素を制限した条件で燃焼させバイオ炭注2)として圃場にすき込めば、大気汚染の削減と地球温暖化の対策として有効であると世界的にも注目されています。本研究は、さらにバイオ炭の鋤き込みを深くすれば作物根系の発達や養分吸収量にどう影響するか、またバイオ炭の組成の影響も探求したものです。

研究内容
試験区は推奨される肥料の投与量を使用した対照処理(T1)と、異なる深さの4つのバイオ炭施用処理(5 cm(T2)、10 cm(T3)、15 cm(T4)、および20 cm(T5))から成ります。FESEMおよびEDX分光法を用いて、土壌に施用した後のバイオ炭の形態と元素分布パターンの変化を明らかにしました。新鮮なバイオ炭は53.7%の炭素と19.9%の酸素を含んでいますが、経年変化したバイオ炭は37.4%の炭素と36.4%の酸素含量を示しました。T5は最も良い結果を示し、対照処理(T1)に比べてトウモロコシの根の特性が最も顕著に増加しました。特に、T5は、バイオ炭が20cmの土壌深さで適用された場合、対照処理と比較して根の長さが最大で48.2%、根の容積が42.7%、根の乾燥バイオマスが56.7%改善されました。20cmのバイオ炭施用による茎の特性では、対照処理と比較して茎の生物量が23.1%増加し、茎の乾燥バイオマスが15%、葉面積が50.5%、葉の数が40.7%増加しました。対照に比べて、20cmの深さでバイオ炭施用による土壌窒素、リン、カリウムの著しい増加が観察され、T5では窒素が20.9%、リンが103%、カリウムの増加率が55.5%でした。GC-MSで調査された最も一貫して見られる分子の一つは、全ての5つの処理で検出された脂肪酸エステルであるメチルステアレートでした。メチルステアレートの含量はバイオ炭の深度が増すにつれて増加し、T1(10.26%)、T2(8.67%)、T3(12.40%)、T4(12.93%)、T5(14.65%)となりました。全体として、この研究の結果は、表土層におけるバイオ炭の均一な適用が、植物の地上および地下の特性を大幅に向上させることを示唆しています。

今後の展開
トウモロコシ以外の作物を用いた長期的な圃場試験も継続して進めており、バイオ炭の効果が持続可能かどうか検証される見込みです。今後、人口増加が続くなかで、食料の安定的な生産と作物の残渣処理と地域・地球環境の保全が両立できることが期待されます。

用語解説

注1)地球研のAakashプロジェクト: インド日本の国際共同研究
   Aakashプロジェクト | 総合地球環境学研究所

注2)バイオ炭:別名バイオチャー、もみ殻などを酸素を制限した条件で燃焼させて作成した炭化物の一種。農水省の「みどりの食料システム戦略」でも取り組みが進んでいる。
   みどりの食料システム戦略トップページ:農林水産省

発表雑誌

雑誌名:Scientific Reports
論文タイトル:Effects of biochar amendment at various soil depths on maize roots and growth indices
著者:S. Gaurav, B. Diptanu, Chandra M. Mehta, K. Prasann, E. Nishihara, K. Inubushi, S. Sudo, S. Hayashida, P. K. Patra, Tatiana Minkina & Vishnu D. Rajput
DOI番号:| 10.1038/s41598-025-09218-1

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