東京農業大学

メニュー

教員コラム

北国のソウルフード食材を楽しむ〜秋サケとイクラ〜

2016年1月1日

名誉教授 美土路 知之

オホーツクの地域資源 Foods Who(2)

 サケは悠久の昔から北方民の重要食材であるとともに、アイヌにとっては神の使いとして崇められてきた。産業のうえでも、オホーツクの海産物の稼ぎ頭となっているのがサケとホタテである。知られているように、サケはオホーツク海から北太平洋にかけて3年ほど回遊したのち、秋口には生まれ故郷の河川に戻ってくる。それを、前浜から沖に向かって設えられた定置網で大量に捕獲するが、オホーツクは北海道でも一、二の水揚げを誇る産地となっている。
 サケは捨てるところがないくらいに一尾まるまる味わうのが地元風。秋のサケはグルタミン酸とイノシン酸の相乗効果によって旨味が増すといわれる。しかし多くのばあい「お目当て」とされるのは、魚卵のイクラであろう。イクラが目的ならメスを求めるが、身を食べるのなら、イクラに栄養分を取られて味が落ちつるメスよりもオスの方が優る。漁師はもとより、寿司職人、鮮魚店などの関係者はクチを揃えて言うには、本当にウマいサケは千尾単位に一尾ほどの確率だそうだ。
 昔から貯蔵や加工も盛んで、塩漬けの新巻や山漬けや乾燥させたトバのほか、頭部の軟骨を酢漬けにした氷頭ナマスがよく知られている。しかし、珍品は内臓を塩辛風に仕込んだメフン(腎臓)やチュー(胃袋)などは「左」党の人には垂涎の的となる。そのほかにも麹で漬け込んだ飯寿司や野菜の漬物、サケ節のほかにも魚醤などがあるし、昆布巻きやフレークなど数百種以上の加工製品も次々と登場している。
 ところで、オホーツク暮らしが長くなると知り合いもふえて、最盛期ともなると地元のサケ漁師が隔週くらいの頻度で、雌雄一対が到来する。9月〜11月にかけては毎週違ったサケを楽しむことになる。とくにイクラはほぐして、大根下ろしか、醤油と日本酒につけ込んで食べるが、季節の深まりとともに異なる味や食感に心震えるときがある。
 イクラはシーズンによって味わいが異なることを知る人は少ないかもしれない。9月のイクラは熟度が浅く、口に含むだけで溶け出すような軟らかさと甘みが優れる。それが10月になると、クセのない味に一粒ごとに大きめで弾力感が加わった絶妙な味わいとなり、この時期が見た目も味も楽しめる。さらに11月には、弾力がさらに増して口中に含んだあとに、プチンとはじける歯ざわりと広がる旨味がまた絶品である。どの時季が良いのかと尋ねられることもあるが、「それは好みによるので実際に味わって判断下さい」というほかない。軍艦巻きの寿司ネタにするならば、後半(10月)以降のイクラが間違いない。



ページの先頭へ

受験生の方