香り立つワインアロマのカギをにぎる、酵母遺伝子の発掘で地場産業を活性化。
2016年2月18日
生物産業学部 食品香粧学科 応用微生物学研究室 中川 純一 教授
ワインの原料がブドウであることは周知の通りですが、ワインに特有の香りは、ブドウ果汁から感知することはできません。高校生のみなさんにはまだ少し早いかもしれません。ワインの香りの話です。
ブドウとワイン、なぜ香りが違うのか?
ワインの良し悪しを左右するワインアロマといわれる香り成分は、醸造を促す酵母の働きで発現します。決してブドウ果汁に含まれていないのではありません。ブドウの中では糖分と結びついて、揮発できないでいるだけです。その糖分を甘いもの好きの酵母が食べてくれるお陰で切り離され、ワインになったときに香り立つのです。
このワインアロマと糖分を切り離す、いわば鋏のような役割を担っているのがグリコシターゼという名の酵素です。酵母と酵素、少しややこしいので整理しておきましょう。酵素はタンパク質、酵母は微生物です。
地場産業活性の後ろ盾となるために
ヨーロッパに似通った気候風土の北海道は、その広さも含めて、ワインの原料となるブドウの生産に適した土地柄であり、ワイン生産は、北海道が今後に期待する産業です。私たちの目的は、グリシコターゼとして働く遺伝子を洗い出し、かつワイン作りに適した元気な酵母をつくって、北海道の地場産業に貢献することです。
実験に使っているのは実験室酵母と呼ばれる遺伝子です。それはすべての遺伝子情報が解読されていることから、その名の通り遺伝子実験にとても適した酵母です。遺伝子酵母の遺伝子は約6,000個。このうち1,000個は酵母の生存に不可欠な遺伝子です。逆に言えば、残り約5,000個の遺伝子は、多少の支障はあっても生存を左右することはありません。その5,000個中1個の遺伝子を欠損させた酵母で実験を繰り返してきた結果、ある特定の遺伝子が欠けていると、複数のワインアロマが香り立つことが分かってきました。つまりその遺伝子が、ワインアロマの揮発を抑制していたわけです。
研究はこれからが本番です。香りを放つだけでなく、醸造発酵という本来の酵母の役割もまっとうする酵母を仕立てなければいけません。少しずつですが、地場産業への貢献という目的に近づきつつあることは確かですがまだ途上。いまは、酵母の働きを元気にしながら香りを立てる遺伝子を、追い詰めているところです。
卒業研究でワインアロマ解析のテーマを選んでチームを組んだ二人。醸成中のワインを見つめる。