カラフルザリガニを作出
2020年5月25日
教職課程 教授 武田 晃治
教授 武田晃治
●専門分野:生化学、酵素学、理科教材研究
●主な研究テーマ:生物色素の教材化に関する研究
カラフルザリガニを作出
教材、有用資源として幅広い可能性
黄色、オレンジ、ピンク、青など鮮やかな色のザリガニがいる。こんなカラフルなザリガニを見たら、その瞬間、なぜこんな色をしているのだろうと疑問を持つだろう。種明かしをすると、これらは元々、白色のザリガニに黄色や赤色などのカロテノイド色素を含む餌を与えて、発色させたものである。科学教育用教材として作出したザリガニだが、食用のほか殻も食品添加物などへの利用も可能な有用資源で、地場産業振興の資材など、幅広い活用策を探っている。
学校教材として開発
私たちの研究グループ(東京農大教職課程の緩利真奈美助教と實野雅太助教、生命科学部分子微生物学科の内野昌孝教授、地域環境科学部地域創成科学科の竹内将俊教授)、国際食料情報学部国際食農科学科の古庄律教授は、東京農大の大学戦略プロジェクトとして、生物の物質機能に着目した農学(Agriculture)を基盤とするSTEM教育プログラムの開発に取り組んできた。STEM教育とは、子どものうちからロボットやITなどの科学技術に触れさせて学ぶ教育法のことで、東京農大版A-STEMの開発を目指した。子どもたちの興味を引き付けるためには、ストーリー性のある授業と色など見た目の変化が重要である。そこで、子どもたちにとって身近な「生物の色」をテーマに、まず生物の色の要因物質とその機能がわかっている物質が、体色に表れている生物を検討した。
食物連鎖を通じた色素の蓄積
普段、食材として目にするサケやイクラはオレンジ色をしているが、サケが元々、白身魚であることを知る人は少ない。サケはオレンジ色のカロテノイド色素であるアスタキサンチンを自ら合成できない。ではなぜ、サケやイクラはオレンジ色なのか? それはサケの生態による。サケは川で生まれ、海を回遊し、また生まれた川に戻ることはよく知られている。川で生まれ、海に降りるまではサケの身は白いが、海を回遊中にサケの身はオレンジ色に変化する。これは、サケが回遊中に食べる餌に起因している。餌に含まれる植物プランクトン、動物プランクトンが、オレンジ色の元となるアスタキサンチンを作り出し、それを最終的にサケが食べることでサケの筋肉に沈着していくのである。
教材カラフルザリガニの作出
注目したのはアメリカザリガニである。外来種のアメリカザリガニは赤い色をしており、その要因物質はサケと同じアスタキサンチンである。ところが、最初から赤い色をしているアメリカザリガニを用いては、餌による体色変化は観察しにくい。そこで着目したのが、白色のアメリカザリガニである。白色ザリガニは、サケ同様にアスタキサンチンを自ら合成することができず、遺伝的にも固定されている。白色ザリガニにアスタキサンチンを含む餌を毎日与えたところ、体色が青色に変化する個体を見つけた(図1)。その脱皮殻をゆでると何とピンク色に変化した。これは生きたエビを天ぷらなどで揚げると赤くなる現象と同じである。
分子レベルでの実験として脱皮殻から色素を抽出することで、餌由来の色素がどのように変化したのかを観察する実験教材を作出することができた。
次に、この現象を青以外の他の色で観察することはできないかと考えた。研究開始当時、ザリガニを黄色にする技術は知られていた。そこで色々な色素を試した結果、最終的に黄色以外にオレンジ、ピンク、青、緑など、色素を混ぜ合わせることで色とりどりのカラフルザリガニの作出に成功した。
教材から地域振興の資材へ
アメリカザリガニは、要注意外来生物としてあまり良いイメージは持たれていないが、小学校では生き物の飼育・観察の教材として昔から扱われており、子どもたちにとっては親しい生き物だ。また、日本にはウシガエルの餌として輸入されたが、アメリカ南部の郷土料理の人気食材となっているなど、食用にする国も少なくない。同様の事例は、ブラックバスなど他の外来種においてもみられる。アメリカザリガニも適切な管理の下で有用資源としての活用策を検討すべきではないか。2030年前後には、食料危機から世界的なタンパク質不足が顕在化する2030年プロテインクライシス問題が指摘されている。アメリカザリガニがこうした食料問題解決に資するのではないかと考えた。
そうした狙いから、東京農業大学農生命科学研究所の木村俊昭教授、農学部動物科学科の黒澤亮助教、応用生物科学部食品安全健康学科の高橋信之教授、美谷島克宏教授、地域環境科学部地域創成科学科の宮林茂幸教授らとともに、それぞれの専門性を生かした研究を進めている。今後、研究で得られた知見を、自治体等と連携協定を結ぶなどして、SDGsに関する環境・科学・食育、生命倫理の教育活動や地場産業振興などの社会貢献のために、応用、展開していきたい。