東京農業大学

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教員コラム

〝カッコいい農家〟をよりカッコよく

2019年9月18日

生物産業学部自然資源経営学科 助教 小川繁幸

助教 小川繁幸

●専門分野:地域経済学
●主な研究テーマ:持続可能な社会の構築にむけた資源循環に関する研究
●主な著書等:山村再生ビジネスとマーケティング(共著)(㈱日本林業調査会)他

農業女子の視点でワークウェア開発

いま日本の地域社会は、グローバルに展開する市場や少子高齢化の影響で危機的状況を迎えている。日本の食料を支える北海道でもこの問題は深刻で、網走市に立地する東京農業大学生物産業学部(北海道オホーツクキャンパス)は、地域活性化に向けたさまざまな活動を行っている。筆者は数ある地域資源の中でも人=農家に着目し、地域社会を担う〝カッコいい農家〟をより〝カッコよく〟魅せる活動を続けている。それにより、次世代を担う若者たちが職業として農業を選択してもらえる仕掛けを作るのが狙いだ。地域の担い手として特に着目しているのが女性だ。

農業で重要な役割果たす女性

現在、女性農業者は基幹的農業従事者の約40㌫を占めており(表1)、「農業経営の現場での女性活躍状況調査」(日本政策金融公庫2013年)によれば、女性が参画している農業経営体ほど販売金額が大きく、経営の多角化に取り組む傾向が強いなど、地域農業の振興や農林水産業の6次産業化の展開に重要な役割を担っている。また、女性が経営者又は経営方針の決定に関わる割合は47・1㌫と(表2)、約半数の農家で女性が経営に参画するなど、女性は農業経営の発展において重要な役割を果たしている。
こうした女性の可能性は、普段、大学で学生と接するなかでも強く感じている。女子学生の比率が年々高まり、目的をもって勉学に励み、自ら積極的に地域で活動している学生は、女性が多いように思われる。本学は地域の担い手を育成し、地域に還すことを目的とした「人物を畑に還す」との教育理念を掲げており、女子学生を地域に還すための仕組みづくりが求められているとも言える。
一方、農林漁業の生産現場でも、生産者が作りたいものを作れば売れたプロダクトアウト型の時代は終わり、マーケットインの発想で取り組まれなければならない時代となっている。女性ならではのネットワーク力や消費者・生活者目線が必要不可欠となっているのだ。

農業女子プロジェクト

そんな女性の活躍に期待し、広く認知されたのが農林水産省の「農業女子プロジェクト」だろう。農業で活躍する女性の姿をさまざまな切り口から情報発信することで、社会全体での女性農業者の存在感を高め、併せて職業としての農業を選択する若手女性の増加を図ることを目的に、2013年から展開されている。このプロジェクトで、女性農業者は「農業女子」と呼ばれ、全国の農業女子が日々の生活や仕事、自然との関わりの中で培った知恵を企業の技術・ノウハウ・アイデアなどと結びつけ、新たな商品やサービス、情報を創造し、社会に広く発信していく活動を展開している。
当初、農業女子37人、企業12社でスタートしたプロジェクトは、2019年7月時点で、農業女子775名、企業は34社にまで拡充している。そして、女性ユーザーの視点を取り入れた多くの商品が開発・販売されている。

しかし、農業へのさらなる女性参入や、女性らしい農業のライフスタイルを提案するうえでは、若年層の女性の取り込みも重要となってくる。そのために農業女子プロジェクトの下で企画されたのが「チーム〝はぐくみ〟」だ。高校・大学のプログラムと、活躍する農業女子の魅力を結びつけ、農業を志す学生の発掘や動機づけ、意識の向上に取り組むため、2016年に結成された。

図1 大学の農業女子プロジェクトとして実施した農機具体験の様子

この企画には、2019年7月時点で7校が参画している。大学として初めて参加したのが東京農大である。ここでの活動でテーマとしているのは「Kawaii(かわいい)」。女子生徒・学生が得意とする価値観で、日本のサブカルチャーとして世界から着目されている。この価値観を、「農」の領域で展開することで、新たな市場の創出や女性らしいワークスタイルの提案を目的に、「新たなワークスタイルを提案するkawaii農業女子育成プロジェクト」と題して取り組んでいる。

ファッションのトレンドを「農」から

その中で作業着=ワークウェアの開発を進めている。今、若者たちの間ではファッションのトレンドとして、ワークウェアが着目されている。そこで、多くの人に農の魅力を伝えるきっかけとするために、あえてワークウェア専門のメーカーではなく、アパレル業界で活躍する企業と連携した。
今、アウターとして流行しているコーチジャケットを開発した。女子学生の意見を積極的に取り入れて、ポケットのサイズや位置、丈など、すべて農作業の状況をイメージしながら、理屈と機能美にこだわった。
通常、コーチジャケットはボタンどめだが、農作業で使うと砂が入りこんでしまう恐れがあるためジッパーを加え、ポケットは物が落ちないよう斜めにしかも大きく深い形にした。さらに小物が入れる内ポケットを設け、ジャケットの丈はしゃがんでも尻が出ないように長めにし、極めつけは、蚊取り線香をつけるためのフックを設けるなど、こだわり満載である。

図2 Universal overall」とのコラボによるコーチジャケット

このコーチジャケットは、本学の学生だけでなく、〝カッコいい農家〟をより〝カッコよく〟魅せるために、地域の農家にも提供し愛用いただいている。農家が何気なく羽織るジャケットが、実はファッションのトレンドであれば、農家はより〝カッコよく〟見えるのではないだろうか。 若い世代が農林漁業に対して抱く負のイメージ(危険、汚い、かっこ悪いなど)を払しょくし、華やかなイメージの強いファッションから農林漁業の魅力を発信することで、若者に農林水産業を選択してもらうための一助となればと思う。

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