東京農業大学

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教員コラム

地域連携と付加価値化ビジネスが織りなすオホーツクストーリー

2017年9月1日

名誉教授 美土路 知之

オホーツクの地域資源 Foods Who(18)

 これまで17回にわたり、オホーツクの地域食材とその取扱いに携わる取り組みについて紹介してきた。今回から2回に分けて、個々の事例のもつ位置づけを再整理し全体を概括する。

素材をこえる製品なし オンリーワンの生乳生産

 オホーツクの海と大地に立脚した生物資源は、豊かさと質でオンリー・ワンであることは論をまたない。清浄で滋味あふれる水と空気は、健康な生命をはぐくみ、繰り返される食物連鎖は、多様な恵みをもたらしてくれる。
 言いかえれば、加工開発や調理により「製品」として完成させるプロセスは重要だが、原材料の「素材」としての質に大きく規定されている。むろん、加工調理の技術力によって付加価値は高められるが、素の一次生産物(農畜水産物)の良し悪しはより根源的ですらある。「製品」により「素材」の質の高さが協調される関係とも言える。そして、その根源を支えている水や資源循環にも格別な意義が見出せるのである。
 一例を示そう。第4回で紹介したオホーツクディリーファーマーズは、酪農家のマイクロミルクプラントとして地域限定の飲用乳ほか、アイスクリームスタンド、スイーツ、地場食材レストランなどで幅広く利用されている。どの商品も「新鮮なミルクの香りやコク」が、他では味わえないと評判になっている。
 その素となっている良質な生乳は、他の生乳もって替えることができない、まさにオンリー・ワン素材といっていい。それは(1)今では全酪農家の約10%しかない放牧酪農で伸び伸び育った健康な乳牛(2)新鮮でオーガニックな草をタップリ食べ、牧場主から手厚い健康管理を受け、ストレスなく飼育された乳牛(3)それがオホーツクの自然環境と相乗している──点が特質を形成している。このシリーズでは紹介しきれなかったが、こうした事例は他にも多く、良質な酪農畜産製品は北海道内外に多くのファンを獲得している。しかも、一次加工製品から酪農家レストランまでの1〜6次化までの付加価値化ビジネスをカバーしている。その基点にあるのがまさに優良な生乳生産なのである。
 そうした意味において、北海道を舞台に多くの製品開発やビジネス展開が存在するが、それは氷山の頂上部分にしか過ぎない。その底辺に拡がる原料や「素材」こそが注目されるべきだろう。
 次回(最終回)では、ストーリーの担い手と地域協働、大学の役割について述べる。

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