東京農業大学

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教員コラム

大地と海の恵みのマリアージュを目指して

2016年12月1日

生物産業学部地域産業経営学科 助教 小川 繁幸

オホーツクの地域資源 Foods Who(11)

女性・事業家+農業者としての挑戦

 北海道オホーツク地域の特産物といえば、誰もが思い描くのはカニやホタテ、サケといった海産物だろう。流氷がもたらす海の恵みに支えられているオホーツクにおいて、独自の戦略で6次産業化にチャレンジしているのが、丸喜北日本物流株式会社の雅楽川沙知氏だ。同社は、漁業を営んでいた雅楽川氏の父がサロマ湖・オホーツク海の海産物を多くの人に知ってもらいたいという思いで始めた水産物の販売会社。漁師として、また社長としての父の背中を見ながら成長してきた雅楽川氏にとって、父は誇りであり、父のオホーツクの海産物に対する思いも自ずと継承されていった。
 2006年に父親が他界、雅楽川氏が会社を事業継承する。当時、20代で、もちろん会社経営になど携わったことのない雅楽川氏にとって、この決断は大きなチャレンジだった。不安を抱えながらも、家族に支えられ会社経営に奮闘していた雅楽川氏に大きな転機が生じる。それが、訓子府町でタマネギを生産する現在の夫との出会いだった。2010年に結婚した雅楽川氏は家業である農業に従事する一方、海産物販売会社の社長の仕事も続けた。


こだわりのグラタン

 全国でも“農業女子”といわれる女性の農業参入と事業化・起業化が注目されているが、農業をしながら、水産物を販売している女性は雅楽川氏だけだろう。そして、この農業と水産業の双方に携わっているという強みを生かして開発したのが、大地と海の恵みのマリアージュをコンセプトとしたグラタン。
 もともとホタテなどの海産物の販売がメインである丸喜北日本物流株式会社であるが、生鮮品の販売においては、流通における壁・リスク(鮮度の保持、送料、天候・道路状況などによる商品ロスなど)があるため、安定した収益を得るためには加工品の開発が必要だった。そして、オホーツクの魅力を届けたいという思いから開発したのが、グラタンだった。このグラタンはホタテのコクを生かし、生クリームをあえて使わないことで、あっさりしているのに味に深みがあるホワイトソースが特徴。もちろん、使う野菜は夫と一緒に栽培した自家製タマネギだ。
 かねてからグラタンを開発したいという思いはあったものの、食品製造に携わったことがなく、専門的な知識、技術が乏しかったことからチャレンジしきれなかった。そのような中で雅楽川氏は「オホーツクものづくり・ビジネス地域創成塾(生物産業学MBAコース)」の第5期生として入塾し、商品開発、製造、マーケティングの知識の習得と販路拡大に向けてテスト販売などにチャレンジした。その結果、2014年には三越本店のギフト商材としてグラタンが選定されるなど、販路は首都圏にまで拡大している。
 地域の特産品開発においては、女性の目線がとても大切である。今ではグラタンの種類も「牡蠣グラタン」「鮭とじゃがいものグラタン」、そして、スイーツのような彩りの「豆と野菜もちのグラタン」など、ラインナップも豊富になった。農業女子としての強みと水産物の販売者というノウハウを最大限に発揮し、オホーツク地域の6次産業化をリードする女性事業家として更なる飛躍を期待したい。

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